『サービスの天才たち』 野地秩嘉 (新潮新書)

サービスの天才たち (新潮新書)

サービスの天才たち (新潮新書)

雑誌で書評を読んで関心を持ち,特にある一章だけは読んでみたいと思いました.たまたま夕食前に時間があったので,近くのスパーマーケットへ行って立ち読みをしてくることにしました.その程度で十分な本だと思っていたわけです.「新潮新書はどこにありますか」という問いに,店員さんから「『バカの壁』は売り切れです」という答えが返ってきたのはご愛敬でした.(ちなみに,ここの本売り場の店員さんは大変な知識の持ち主です.)しばらく読み進むうちに,これは持っておいてもよいかなと思い始め,その日,風呂につかりながら読了した,そういう本です.

さて,『サービスの天才たち』というタイトルから,それぞれの仕事に対するプロフェッショナルを連想する人は多いと思います.「仕事のプロ」を紹介した本はこれまでにごまんとあるでしょう.しかし,そうした本では,その人がプロとなって名声か地位か名誉のいずれかを手に入れるまでの成功譚として語られることが多いのではないでしょうか.

本書は少し趣を異にします.この本の特徴は,そこで紹介されているプロの目線の低さであり,そして何より著者自身の目線の低さにあります.この本に出てくる天才たちは,市井の中に埋もれている,あるいは埋もれていてもおかしくない天才たちであり,知る人のみが知る天才たちです.但し,彼らを指名する顧客は超一流の人達です.いわば,スティーブ・ジョブスアランケイやクヌスといった超一流の人達が,「俺の計算機はあいつがWindowsをインストールしたものでなければ使わない」と言って指名するWindowsインストールの専門家とでも言いましょうか.ここで紹介されている,そうした市井の人の一隅を照らす生き方に強い共感を覚えると同時に,その生き方にはそこはかとない力強さを感じました.

この本を読んで,同じ著書の前著に『サービスの達人たち―ヘップバーンを虜にした靴磨きからロールスロイスのセールスマンまで』(新潮OH!文庫)があることを知りました.これもかなり売れたようです.ただし,単行本時のタイトルが「日本のおかま第一号」というのはちょっといただけません.新潮社の波2003年12月号による著者の文章によれば,この2作では取材の方法を意識的に変えているようですが,こちらも同じように味わい深い本です.「命懸けで届けた被災地への電報」というタイトルでNTT職員も紹介されています.

(2004.1.13の読書メモより)

【一緒に手に取る本】

サービスの達人たち (新潮文庫)

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