『救急精神病棟』 野村進 (講談社)

救急精神病棟 (講談社文庫)

救急精神病棟 (講談社文庫)

(単行本初版は,2003年10月刊)

著者の野村進は,近現代日本と韓国の関わりを扱った『コリアン世界の旅』(講談社)以来,私が信頼をおくノンフィクション作家の一人です.統合失調症は時代,民族を問わず100人に一人の罹患率うつ病心の風邪程度に当たり前のもの,といった科学的に裏付けられた事実があるにも関わらず,こうした病に対する偏見がまだ強いのも事実です.

本書は,日本でただ一つの救急精神病棟を扱ったルポルタージュです.ここで紹介されている症例を人間の本性あるいは現代社会を映し出す鏡としてみることもできるでしょう.また,現代の最先端医療の実情を知る,という点でも有意義な本です.私自身,「統合失調症」の治療がここまで進んでいるとは知りませんでした.

少し古いですが,新聞記者が患者を装って病院に潜り込み,その体験をまとめた『ルポ・精神病棟』(大熊一夫,朝日文庫)という本があります.これは,いわば日本の精神病棟の後進性を指摘した告発本であったのに対し,本書は,むしろこれからの医療とその現場を支える人達への期待を抱かせる内容になっています.

ノンフィクションの第一人者である鎌田慧が今年の3冊の一つに取り上げ(トーハン新刊ニュースNo.642)、「いつ精神的におかしくならないか、と不安にならない人こそ読むべき本」とコメントしていますが、全く同感です.私自身,自らの心のバランスを保つために日々腐心しています.弱気になり過ぎてもいけないし,自信過剰になってもいけません.自然体を保つというのはなかなか難しいことです.

(2004.2.29の読書メモより)

【一緒に手に取る本】】

コリアン世界の旅 (講談社文庫)

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ルポ・精神病棟 (朝日文庫 お 2-1)

ルポ・精神病棟 (朝日文庫 お 2-1)