『妻との修復 (講談社現代新書)』 嵐山光三郎 講談社

妻との修復 (講談社現代新書)

妻との修復 (講談社現代新書)

嵐山光三郎は天才ではないかと思う.不良中年を自称し,本人が道楽というところのものにうつつを抜かしながら,一方でこのような至極面白い本を書いてしまうのだ.こういう本を思いつくところが,かつての名編集者の片鱗をうかがわせる.

本書は,妻と良好な人生を送るための夫に向けた指南書,といったところだが,もちろんそこらにあるようなハウツー本なんかではない.著者の友人知人,明治,大正,昭和の文学者,政治家などから学ぶ,修復のための50ヵ条と75の教訓をまとめたもの.取材源が取材源だけに,かなり片寄りはあるかも知れないが,どれもこれも侮れない人生の本質をついている.そして,なによりも本書を読んで楽しいのは,著者特有の諧謔味であろう.まじめに居住まいを正して読むような本ではない.

第一章は,修復の達人に訊く五十ヵ条,である.

18 納戸の切れた電球をとりかえる
41 妻にガーデニングをすすめる
44 夫の無知無能をさらけ出す
49 いちいち妻のいうことをきいている男の方が,離婚を言い渡される確率が高い.

続く12の章には,75の教訓が散りばめられている.

教訓35 言葉は人間を殺す.負けるのはきまって男である.
教訓39 他人がうらやむほど幸せに見える結婚ほど,実態は悲惨なものになりがちだ.
教訓57 友人の妻に「夫と別れたい」と相談されても,聞こえなかったふりをするのがよい.
教訓71 妻に期待しない.幻想をもたない.あきらめる.そうすると,なんとなくうまくいくこともある.
教訓72 なげやりな時間の持続が夫婦関係の妙である.やんわりとガマンして持続させると,暗闇の中から一条の光がさしこんでくる.

どれほどかわいらしい娘でも,結婚して7年たつとおばさんになる.十四年たつと妖怪となり,二十一年たつと鬼婆になり,二十八年で超獣となって、それ以上たつと手のつけられない神様となり,これを俗にカミさんという.

あとがきに描かれている夫婦は,二人で横に(向き合ってではなく)並んで,テレビをみたり,食事をしたり,映画をみたりして,なんでもないようなありきたりの感想を言い合う,平凡な風景である.

だれか女嵐山が,「夫との修復」をかかないだろうか.本書は,男からみた修復の物語であることは確かであるから.

【読んだきっかけ】覚えていない.書店でみつかたか.なぜか,2冊所有していて,表カバー裏返して,書名がわからないようにして読んでいたのが,家族にばれ,失笑を買ってしまった.

【一緒に手に取る本】嵐山の本はどれも大好きだが,2冊だけ掲げておく.
新風舎文庫(今は出版社がないらしい)に,著者のデビュー作を集めたシリーズがあったらしいのだが,その中の1冊.梁山泊と化している,かつての平凡社の雰囲気が伝わる名著.

口笛の歌が聴こえる (新風舎文庫)

口笛の歌が聴こえる (新風舎文庫)

行春や鳥啼魚の目は泪(ゆくはるやとりなきうおのめはなみだ)
の魚とは杉風(さんぷう)のことだという発見に感動
芭蕉紀行 (新潮文庫)

芭蕉紀行 (新潮文庫)

(2011.2.15追記)
絶版であった『追悼の達人』が復刊されたらしい.単行本初版は1999年刊.週刊朝日2011.2.25号に嵐山本人による文章がある.追悼文は,短い時間で書き上げなければいけないので書く人の本音が出る,ナマの心情が出る.だから凄い.なるほど.

追悼の達人 (中公文庫)

追悼の達人 (中公文庫)