『恋の隠し方 ― 兼好と「徒然草」』 光田和伸 青草書房

恋の隠し方 ― 兼好と「徒然草」

恋の隠し方 ― 兼好と「徒然草」

なんでまた,齢50を過ぎて今頃「徒然草」なのか.徒然草をつれずれなるままに書いたエッセーのたぐいだと思っていたら大間違い.ちゃんと読んでないとそう思いますね.しかし,少し腰を落ち着けて読んでみると,吉田兼好がただものでないことが次第にわかってきます.兼好は68歳まで生きたと言われていますが,30歳を前に出家するには,それなりの理由があったに違いありません.徒然草には,そうした兼好の深い人生観,思想,哲学が織りこまれているのです.

ところが,徒然草をただの随筆だという誤解が広まっているのは,世にある多くの解説書,特に,受験参考書にその原因があると言われます.例えば,序段の一文,

つれづれなるままに、日くらし、硯にむかひて、心に移りゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。

この一番大事な文章の現代語訳,解釈のひどいものがいかに多いことか,と著者は嘆いています.しかし,ここまでは,しかるべきテキストを選びさえすれば大丈夫でしょう.本書は,さらにその後ろに隠された徒然草の秘密を解き明かそうという本です.帯に,「「道」を説く徒然草にまじっていた朱い糸くず」と洒落た文句がありますが,徒然草には,兼好法師の若き頃の哀しい恋の思い出がそれとなく織りこまれている,ということをこの本は明らかにしてくれます.

本書は,徒然草の最も良い解説書だと思って読み始めた杉本秀太郎の『『徒然草』を読む (講談社文芸文庫)』において知ったのですが,ともに合わせ読むべき本です.

本書を読んでもう一つ大変良く実感できたのは,こうした古典を読み解くことは,京都の文化と歴史が肌身に染み込んだ人でないととてもできないのだ,ということでした.同じようなことを教えてくれた本に,『岩佐美代子の眼―古典はこんなにおもしろい』があります.この本は改めて紹介したいと思います.

ちなみに,今,NHKのラジオで,「耳で聴く、徒然草に学ぶ精神世界」(2010年4月〜2011年3月)講師 : 伊井 春樹(大阪大学名誉教授)というのが放送中です.

【読んだきっかけ】とある小さな電車の駅の高架下に小さな本屋があり,なぜだか夜10時過ぎまで開いている.たいした本はないのだが,たまに何気なく入ると,ちょっと気になる本があることがある.『京都で読む徒然草』を買ったのが徒然草にはまったきっかけ.「京都で読む」」というところがみそですね.

【一緒に手に取る本】

『徒然草』を読む (講談社文芸文庫)

『徒然草』を読む (講談社文芸文庫)

初出は,1987/11 岩波書店
京都で読む徒然草

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岩佐美代子の眼―古典はこんなにおもしろい

岩佐美代子の眼―古典はこんなにおもしろい

徒然草 新潮CD

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ついでに併読しています.面白い!
古文の読解 (ちくま学芸文庫)

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