『高木貞治 近代日本数学の父 (岩波新書) 』 高瀬正仁 岩波書店

高木貞治 近代日本数学の父 (岩波新書)

高木貞治 近代日本数学の父 (岩波新書)

「没後50年 初の評伝」と帯にある.高木貞治は1875年(明治8年)生まれで,1960年(昭和35年)に亡くなっている.高木貞治の評伝であると同時に,近世日本数学史といってもいいだろう.特に,明治初期,欧米に追いつくための教育施策,日本における近代科学技術勃興の流れを追うことができる.

高木貞治といえば,かつては,数学を目指す高校生,あるいは,少し背伸びしたがる数学好きの高校生にとって,『解析概論』の著者として有名な存在であった.私もその一人で,岩波書店の大判の箱入りの『解析概論』を大切にしていて,そのごくはじめの方を,こわごわ読んだものである.ほんものの「数学」というものに触れたような気になった時期であった.

高木は小さいときから神童と呼ばれ,大きな期待がかけられていたことがよくわかる.明治中期,大学はもとより,中学,高等学校でさえ,入学,進学できるのは,経済的に恵まれていたごく一部の生徒であった.才能と,運(経済状況)に恵まれたものだけが大学教育を受けることができた.

高木が高等学校で受けた数学教育には,和算の流れを汲むものと,洋算の流れを汲むものとの両方があったことは興味深い.

本書の魅力の一つは,高校生のための数学解説がついていること.内容,レベル,分量とも適切であると思う.

高木貞治が,カントール集合論に対してどのような見解をもっていたのかに興味があったが,その点に触れた記述は残念ながらなかった.ただ,高木が昭和23年におこなった特別講義において,「数学の本質はその自由性にあり」というカントールの有名な言葉から説き起こした,とある.

【読んだきっかけ】書店にて

【一緒に手に取る本】

定本 解析概論

定本 解析概論