“丁寧にやることがいい,手間ひま掛けることがいい,たっぷりと時間をかけて,心を込めてつつましく” 『までいの力 』 SEEDS出版, 飯舘村 SEEDS出版

までいの力

までいの力

 副題に「福島県飯舘村にみる一人一人が幸せになる力」とある.5月5日の朝日新聞天声人語でも紹介されたとのこと.出版されたのは,地震原発事故の後で,村長さんのメッセージが巻頭にある.

 だが,この本の意義は,本の中身は,震災前に既に出来上がっていて,出版を待つばかりであった,ということにある.「までい」とは,東北地方の方言で,古語「真手」に由来し,「手間ひまを惜しまず」,「丁寧に」,「心をこめて」などを意味するという.

 一言でいってしまえば,村おこし活動の紹介,ということになるか,本書はそれ以上の魅力をたたえ,読む人に感動を与える.その理由はなんだろうか.ひとつには,この小冊子そのものが「までい」に創られていることにあろう.

過疎問題が叫ばれて久しいが,100年,200年前は,日本のどこも今で言う過疎程度の人口密度であったに違いない.住む人の,心と力で,いくらでも豊かな共同社会を作ることができるのだ,ということを教えてくれる.それを根底で支えるのは,豊かな自然と,人々の知恵と力だろう.

P.31

無縁社会 × までい = 有縁社会
限界集落 × までい = 元気集落
何もない里山 × までい = 資源の山

特に印象深い活動は,1989年から5年間開催された伝説の事業「若妻の翼」である.
P.86

 「とんでもねぇごと,言い出して!」そんな風に言われたお嫁さんもいただろう.村に嫁いできたばかりの,それまで静かにしていた若い嫁が,「ヨーロッパに行きたい!」なんて言い出したのだ.しかも季節は,農家にとっては一年で一番忙しい秋.家の中で一番弱い立場だったお嫁さんばっかりが一番先にそんな贅沢ができるなんて.そういう風に言われるのは当然と言えば当然かもしれない.
 「ヨメ」というものは出しゃばらないもの,ご主人である夫の三歩後ろを歩くもの,村のみんながそう思っていたし彼女たち自身もそう思っていた.そんな中で,ヨーロッパに行くには,自分の気持ちを素直に口にしなければならない.しかしこの勇気が,当時の村には必要だったのだ.田舎ならではの男尊女卑の封建的な考えを打ち破るために.

これをきっかけに,彼女たちの考えや行動に変化が見られ,それが男性を変え,そして村を変えていった,という.
 
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