“時代の断片を感性で見つけ出してそれを拡大したり深く入り込んだりしながらメッセージを発信していかなくてはなるまい” 『滅びのチター師―「第三の男」とアントン・カラス (文春文庫) 』 軍司貞則 文藝春秋
滅びのチター師―「第三の男」とアントン・カラス (文春文庫)
- 作者: 軍司貞則
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1995/12
- メディア: 文庫
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著書の処女作であるという本書の魅力は,ウイーンに暮らした著者が自ら発掘した話題であるという点であろう.
ウイーンでリードに見いだされ,「第三の男」の音楽に抜擢される.映画の公開とともに一夜にして時の人となり,世界中を演奏してまわり,一晩で普通のひとの年収相当の稼ぎを得ていた.そのカラスは,ウイーンでは既に忘れ去れた存在になっていた.それはなぜか.
ウイーン市役所の人は次のように言い,
「カラスは過去に有名だったが、いまは忘れられた存在だね。周囲の人は、彼がたった一曲で有名になり、金を稼いだことに対して不愉快な感情を持っているんですよ」
書店にいってもカラスのことを書いた本なのどないのである.
有名な旋律(レ,レ#,ミ,レ,ミ,レ,ミ)が映画の中では様々にアレンジされて使われているが,後半の「マルク・オーレル・カフェ」のシーンの音楽が気になり出す.地元の人から得たコメントは「これはチゴイネルの音楽です」というものであった.
ここから,オーストリアという国家の成り立ち,ウイーンという都市の雰囲気,そこにある民族問題などへ話は進んでいく.一旅行者として訪れても決して気がつかないであろう,国際都市の深層に触れてて行くことになる.
この映画で有名な台詞,
「イタリアでは、ボルジア治下の三十年間、戦争とか恐怖とか殺人とか流血があったんだけど、一方ミケランジェロやレオナルド・ダ・ビンチや文芸復興を生んだんだ。―スイスじゃ同胞愛さ。五百年間の民主主義と平和を保ったが何を生んだろう?ポッポ時計だよ」
は,原作になかったという.「そんなせりふはドラマにはいらない」と主張するグリーンを説き伏せたのだそうである.
当時の時代背景
- 1914年6月28日ボスニアの首都サラエボでオーストリア皇太子夫妻暗殺,第一次世界大戦へ
- 1917年ロシア革命
- 1918年11月11日神聖ローマ帝国(ハプスブルク町)崩壊
- 1919年9月10日:サン・ジェルマン条約により,オーストリアは領土の3/4を失う.
ホイリゲとは
ウイーンではホイリゲは2種類に分かれている,第一種を,Heurigeとよび,
- ワインを自分の畑で作っていること
- ワイン畑は,ウイーンから10キロ以内にあること
- 営業日数は年間300日以内
- 営業時間は午前8時から午前零時
- 営業品目はワインと冷たい料理で,火を使ったものは出してはいけない
- 利益に税金がかからない
- 営業許可は不要
第二種をweinschenkeと呼び
- ワインは自家製でなくてよい
- 営業日数は一年中
- 営業時間は午前6時から午前零時
- 営業税,アルコール税,飲料税,飲食税が必要
- 火を使った料理を出せるが税金がかかる
- 営業許可が必要
チターのこと,チター教授の弁
チターは百五十年ほど前からヨーロッパ各地で演奏された。バイエルン地方のカイザー(皇帝)も弾いたほどです。オーストリアでも皇室関係者が好んで弾いたという記録が残っています。
(中略)
ところが,ピアノやオルガンが普及してくると、上流階級はそちらへ流れた。
(中略)
そのうちチターは、社会的にも上流でない人々の楽器になってしまった。
チターそのものが演奏の非常に難しい楽器であるらしい.
【関連読書日誌】
【読んだきっかけ】
文庫本1995年刊,単行本1982年刊であるが,そのもとは,文藝春秋の掲載記事.31年前総武線下総中山駅前の書店で,立ち読みした文藝春秋でその記事を読んでいる.そのときの記憶が頭の片隅に残っていた.文庫化されたものを買ってあったが,今回再読,
【一緒に手に取る本】
- 作者: グレアムグリーン,Graham Greene,小津次郎
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