“欲しいものは最高のものを持ちなさい” 『ストラディヴァリウスの真実と嘘 至高のヴァイオリン競演CD付き』 中澤宗幸 世界文化社

ストラディヴァリウスの真実と嘘 至高のヴァイオリン競演CD付き

ストラディヴァリウスの真実と嘘 至高のヴァイオリン競演CD付き

ヴァイオリンは私のとって謎の,得たいの知れない楽器であった.そのいろんな謎をかなりのところ,ああそういうことだったのね,と何となく納得させてくれる本である.ヴァイオリンが謎の世界のものである一つの理由は,芸術の世界は,ある種の高みの世界があって,そこに達した人にしか知ることが出来ないものがある,あるいは,あると思われてくれるからである.だから,それを仲介してくれる人が必要なのです.
謎とは,例えば,

  • 古いヴァイオリンが,1億円以上の値段で取引されているのか.現代の技術をもってしてもその音を再現できないばかりか,なぜ特定のバイオリンだけが素晴らしい音を奏でるのか.その理由がいまだに解明されていないのはなぜか.
  • 木の材質だけでなく,ニスまで音に影響するというのは本当か
  • ロケット工学の糸川英夫博士が作ったバイオリンの専門家の評価はどうだったのか.
  • 名器と言われるいったいどうやって取引されているのか

などなど.

本書は,その意味で,やっと出会うことができた1冊とも言えます.『ストラディヴァリウスの真実と嘘』というタイトルはやや広告向けの感じがありますが,本書は魅力は次のようところにあります.

  • 修復・鑑定の,世界第一人者が語る!とうたっているように,この世界で長く活躍している人が,経験をもとに語っているので説得力があります.帯に,アルバン・ベルク四重奏団の第一バイオリン奏者が推薦文を寄せているのもその証跡とも言えます.
  • ふんだんに挿入されているバイオリンや工房の写真.初心者にもわかりやすく,この世界がずっと身近に感じられるようになります.
  • 名器4挺による音楽CD付き,総額25円とか.これも素晴らしいものでした.素人ながらに楽しませてもらいました.

勉強になったこと

  • 修復のために,分解して組み立て直したりもする.部品だけ替えたりもする.
  • ヴァイオリンという楽器は,16世紀初めに突如,ほぼ完成した形で出現した
  • ヴァイオリンはイタリアが最高だが,弓はフランス.
  • 当然メンテナンスにもお金がかかる.保険料は購入価格の0.375%
  • 製作者が贋作と呼ぶのは,本物と見分けが付かないレプリカ.それ以外は「似て非なるもの」
  • ヴァイオリンは弾き込まなければいい音はでない
  • 楽器に貼ってあるラベルの蒐集家というのもいる
  • 世界で一番良い楽器を使っているオケは,N響
  • クレモナ黄金期の名器が再評価されたのは19世紀になってから.イタリア人ルイジ・タリシオとフランス人J.B.ヴィヨームの功績.
  • 作製当時のニスの状態までそのまま残っているのが名器「メシア」英国アシュモリアン美術館蔵

本書を読んでさらなる興味をもったのは,著者中澤宗幸氏の父君のこと.一度財産を失いながら,水車を自分で作り,ヴァイオリンも自作して一家に音楽を保ち続けた人.どんな人だったのだろう.「欲しいものは最高のものを持ちなさい」というのが父の教えの一つだと言う.

ちょっとびっくりしたのは,良い楽器を保有して,将来有望な若手に貸与するという活動をしている人として,宗次徳二さんという方がでてきます.この人は,CoCo壱番屋の創業者,そして,
『日本一の秘書―サービスの達人たち  (新潮新書 411) 』 野地秩嘉 新潮社にでてくる,日本一の秘書の雇い主に他ならない.

【関連ブログ】
“彼ら自身は平凡な市井の人ではあるが,やっている仕事は非凡なのである” 『日本一の秘書―サービスの達人たち  (新潮新書 411) 』 野地秩嘉 新潮社
【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】
本書でも経緯が語られている糸川バイオリンは次の本に詳しい

八十歳のアリア―四十五年かけてつくったバイオリン物語

八十歳のアリア―四十五年かけてつくったバイオリン物語

映画「レッド・バイオリン」は,赤いバイオリンの数奇な運命を辿る佳作.第11回 東京国際映画祭 最優秀芸術貢献賞 受賞,98年 カナダ・ジェニー賞主要8部門受賞,1998年カナダ・イタリア合作
レッド・バイオリン [DVD]

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