“日本という国は貧しい国を助けようともしない自分勝手な国だと国際的に見られはじめるだろうことを、国民の多くは知らないという事実です” 『国際人のすすめ』 松浦晃一郎  静山社

国際人のすすめ

国際人のすすめ

「世界に通用する日本人になるために」というのが副題.
こうした主題の本は少なくないが,ユネスコの事務局長を10年務め,その再興を実現した人が書いた本となれば別であろう.思いだすに,1990年代,アメリカのユネスコ脱退ということが確かにニュースになった.文化を守るユネスコからアメリカが脱退せざるを得ない状況にユネスコがあるという事実に,暗澹たるものを感じたものである.松浦事務局長のもと,アメリカはユネスコに復帰する.

「世界に通用する日本人になるために」と副題にあるように,世界で戦ってきた人の経験談である.

第一部 ユネスコ改革に奮闘する
第一章 改革のカギは選択と集中、そして全員参加

ユネスコは、Education, Natural Sciences, Social and Human Sciences, Culture, Communication and Information をミッションとする国際組織である.

第二章 三〇〇〇人の大組織に単身乗り込む

ほかの国連の諸機関とは異なる知的な国際機関であるユネスコの運営をとても日本人には任せられないという中傷があったという.

フランスの高名な文化人類学者レビ―・ストロース氏は、文化相対主義の考えに基づき各文化の間に優劣はないと唱え、西洋文明が他の文明に優っていると考えがちな一部の西欧文化人に釘を刺しましたが、残念ながらそのような傾向はまだ一部に残っているようです。

第三章 ユネスコ事務局長の一日
第四章 人事政策がマネジメントの中核
第五章 難航した地方事務所の合理化
第六章 陽の当たらぬ者にこそ光を―小国への配慮

一九八〇年代には国連総会で、「先進工業国はGNI(国民総所得)の〇・七%を政府開発援助として開発途上国に供与する」という決議が成立し、日本を含めたほとんどの国が受諾しました。ただし,アメリカは受諾しませんでした。
 ところが二〇〇九年時点でこの国際目標を達成している国は、スウェーデンノルウェーデンマーク、オランダ、ルクセンブルクの五カ国だけなのです。

日本は、膨大な財政赤字を抱えているとはいえ、引き続き大きな貿易黒字を出し、巨大な対外債権を持って、国際的にはとても豊かな国と見られています。しかし一九九七年以降、十三年にわたり毎年ODA予算が削られ、現在の予算額は十三年前に比べると半分ほどに落ちてしまいました。その結果、ODAのGNI比は、年々低下の一途をたどっています。

私が寂しいのは、単純にODAのGNI比が減ってきているということだけではなく、現在先進国の中で最低になるほど日本のODAのGNI比が毎年減り続けた結果、日本という国は貧しい国を助けようともしない自分勝手な国だと国際的に見られはじめるだろうことを、国民の多くは知らないという事実です。

第二部 世界に通用する国際人の資質
第七章 語学力が基本

もう一つの外国語には何を選べばよいか。かつてであればフランス語やドイツ語というところでしたが、現在はどこで仕事をするかによって決まってきます。中国であれば中国語、ロシアおよびロシア語圏であればロシア語、フランスおよびフランス語圏であればフランス語、スペインおよび中南米であればスペイン語、ということになります。残念ながら、ドイツ語は国際用語としてはランクを落としていると言わざるをえません。

第八章 記憶力の付け方
第九章 判断力がカギ

最後に私は二十二年先輩である局長に対し、外交官生活で一番大切なことは何かと尋ねたところ、局長はただちに「判断力だ」と答えてくれました。

第十章 議論するコツ
第十一章 中期ビジョンを示す
第一二章 体力がすべてを決める

第三部
第一三章 相互信頼なくして組織は動かず
第一四章 後任が改革成功の鍵を握る
第一五章 国際選挙に勝つための用件
一六章 日本の教えが通用しない世界

先輩から言いつかった仕事上の教え
長話をするな―ひとの話は良く聞け
自慢話をするな―仕事には謙虚であれ
責任から逃れるな―言い訳をするな

国際社会の常識3ヵ条
できるだけ長話をする
成功した自慢話だけを話す。失敗談など絶対にしてはならない
不利な点の指摘にはすぐ反論し、絶対に責任を認めてはならない

(略)
私の事務局長の十年の経験から言えば、選挙の段階で教えられた、「長話をしろ」「自慢話をしろ」「責任をとるな」の三助言は、なるほどと思えるところもありますが、国際機関の長、いや、管理職など組織のリーダーとなった後は、長話や自慢話は、やはりほどほどにしたほうがよいと思っています。とりわけ最後の「責任をとるな」という点は、私にとっては言語道断です。

第一七章 悪戦苦闘のタリバンとの交渉

一九六〇年代に、アスワン・ハイ・ダムの建設によってダムの底に沈む運命にあったアブ・シンベル宮殿の救済に向けて、ルネ・マウ・ユネスコ事務局長が国際的な運動を展開し、それに成功しました。

第一八章 国連の中のサミット―「CEB」の知的挑戦

ユネスコ事務局長の十年間で、最も知的挑戦を感じた会議は「CEB」でした。CEBとはChief Executive Board の略で、日本語にすると「国連各機関の長からなる理事会」ということになります。

ユネスコのホームページより

UNESCO works to create the conditions for dialogue among civilizations, cultures and peoples, based upon respect for commonly shared values. It is through this dialogue that the world can achieve global visions of sustainable development encompassing observance of human rights, mutual respect and the alleviation of poverty, all of which are at the heart of UNESCO’S mission and activities.
The broad goals and concrete objectives of the international community – as set out in the internationally agreed development goals, including the Millennium Development Goals (MDGs) – underpin all UNESCO’s strategies and activities. Thus UNESCO’s unique competencies in education, the sciences, culture and communication and information contribute towards the realization of those goals.
UNESCO’s mission is to contribute to the building of peace, the eradication of poverty, sustainable development and intercultural dialogue through education, the sciences, culture, communication and information. The Organization focuses, in particular, on two global priorities:

【関連読書日誌】
“まじめな人がバカをみない日本であってほしいのだ” 『世界で損ばかりしている日本人  (ディスカヴァー携書) 』 関本のりえ ディスカヴァー・トゥエンティワン
“過去五十年、欧米人と議論や口論になった場面で、私は負けたことがない” 『言葉でたたかう技術』 加藤 恭子 文藝春秋
“本は「根っこ」(思想)と「翼」(想像力)を与えてくれる。この二つは、外に内に橋をかける時の大きな助けである” 『日本人の美風  (新潮新書 436) 』 出久根達郎 新潮社
【読んだきっかけ】
娘が国際機関に興味を持ったので,国際機関で働く友人に相談したら薦められた本2冊の内の1冊
【一緒に手に取る本】

言葉でたたかう技術

言葉でたたかう技術

女ひとり世界に翔ぶ ― 内側からみた世界銀行28年

女ひとり世界に翔ぶ ― 内側からみた世界銀行28年

日本人の美風 (新潮新書)

日本人の美風 (新潮新書)