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“フラットな時代だからこそ,時代に即した意見・知識集約の仕組みを考案すべきであろう” 『研究者のベーシック・インカム』 有田正規 (コラム はみだし生命科学 No.8)科学 2011年 10月号 岩波書店

『研究者のベーシック・インカム』 有田正規 (コラム はみだし生命科学 No.8)科学 2011年 10月号 岩波書店

科学 2011年 10月号 [雑誌]

科学 2011年 10月号 [雑誌]

 東大の生命情報学の研究者である有田正規氏が,学会のあり方,研究費のあり方,若手研究者の雇用形態について一石を投じている.氏の提案は,各組織ごと雇用されている任期付き研究員制度を廃止し,日本学術振興会(JSPS)や科学技術振興機構JST)に所属する独立研究員制度に一本化させる,というもの.各研究員には,ベーシックインカムとして,生活費と研究費を一律に配布する.
 背景には,多額の研究費がプロジェクトをマネージするボスの下に流れ,ボスの下で徒弟制度かしている,という実態に対する批判がある.
 ゲノム科学と結びつくことによって,生命科学の純な(?)部分も,ビッグサイエンス化されてしまったような感じがするのは気のせいだろうか.
 ここでは,ベーシックインカムのことはおいておいて,少し違う視点で引用しておきたい.
 鷲田清一氏 科学 2011年 07月号のコラムを引いたことがあるが,そこでの指摘の一つは,原発事故にからんで,専門家集団である学会が学会としての見解を出すことができないでいる,という点を指摘していた.有田氏は,いわゆる「ボス支配」のもとに,信頼すべき知識としての拠り所としての役割をはたしていない,という.そしてその象徴として,日本学士院のウエッブサイトと,米国の科学アカデミーのウエッブサイトを比較してみよ,という.

問題点は巷で言われているような学術界の閉鎖性ではない。マスコミや政治家が現場を知らないボスとしか対話しないこと,そのようなボスたちが若手の将来を握っていることが問題なのである。

さらに次の二つの事例をあげている.

放射性物質の大気拡散予測データを隠蔽した日本気象学会の会員の多くが,データを隠蔽すべきだと思っていただろうか。

放射線は「直ちに健康に影響を与えるものではない」と幹部がマスコミに言い続ける日本原子力学会の会員の多くが適切な解説と思っているだろうか。

このような時代にこそ,研究者や専門家がどう考えるのかが問われている。それに応えられるのは,社会の一員としての学会組織ではないか。ソーシャル・ネットワークツイッターで仲間と連絡を取り,インターネット上で論文発表さえできれば学会は要らないとする研究者まで現れているが,それは作り上げられた学問文化の上に安閑としているに過ぎないフラットな時代だからこそ,時代に即した意見・知識集約の仕組みを考案すべきであろう。しかしまず,多くの人に信頼される知識の源としての学会を再構築するためにも,学術界の民主化が重要である。

大学2年(1981年)の秋,第3学年からどこの学部,学科へ進学すべきか決めるためのガイダンスとして,各学科代表の先生がその学科の紹介を行う,というイベントがあった.その中で,科学史・科学哲学の代表として来られた,村上陽一郎先生の言葉は,今でも強く印象に残っている.
「科学史という分野も日本でもようやく学会ができるところまでこぎつけた.だが,それは学問にとっては不幸なことである.なぜなら...」

【関連読書日誌】
“科学(者)への信頼は,何が確実に言えて,何が言えないか,それを科学者自身が明確に述べるところに成り立つといえる。科学とは,まずなによりも《限界》の知であるはずである” 『見えないもの,そして見えているのにだれも見ていないもの』 鷲田清一 科学 2011年 07月号 岩波書店
【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】

職業としての科学 (岩波新書)

職業としての科学 (岩波新書)

『みんなが選ぶ1冊』(「科学技術と社会の相互作用」第2回シンポジウム(2009年4月25日)配付資料)
『「科学技術と社会の相互作用」についてのおすすめ本』(「科学技術と社会の相互作用」第4回シンポジウム(2011年5月29日)配付資料)