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“否認主義はインターネットで繁殖する。二〇〇〇年代にインターネットが否認主義に及ぼした影響は、一九七〇代に大陸を横断する飛行機がHIVの蔓延に及ぼした影響に等しい。” 『エイズを弄ぶ人々 疑似科学と陰謀説が招いた人類の悲劇』 S.C.Kalichman, 訳:野中香方子 化学同人

エイズを弄ぶ人々 疑似科学と陰謀説が招いた人類の悲劇

エイズを弄ぶ人々 疑似科学と陰謀説が招いた人類の悲劇

パッと読み始めて,すぐには何のことかわからないだろう.誰が,何を,もてあそんでいるのか.否認主義とは,誰が,何を,否定しているのか.そして,著者はどちらに与しているのか.「エイズの原因がHIVであること」を否定している,認めていない,一団の人々がいて,世界的に見過ごせないほどの影響力をもち,特にアフリカの人々がその被害を受けている.こうした現状を告発する書である.
 著者は,冒頭で,どんな特定の企業,特定の科学者,特定の政治家と,故意に与する者ではない,という申告をしている.それを,素直に信じて読み進めるしかないであろう.ここに書かれた事実を,現在ある事実としてしかと受け止めなかればなるまい.さらに,これを,特殊な人たちによる特殊な事例だと考えてはいけない.私たちの思考過程のうちに,あるいは,科学の判断システムのうちに容易に,ひょっとしたら必然的に入り込む可能性のある誤謬であると理解すべきであろう.
P.xi

最近まで、米国のエイズ研究者や活動家は否認主義者たちをあざ笑い,放っておいても連中はいずれ消えていくだろう、と決めてかかっていた。だが、あいにくそうはならなかった。セリア・ファーバーのようなジャーナリストは相変わらず否認主義者のお先棒をかつぎ、その暴論を宣伝しつづけているし、さらに気がかりなのは、そのファーバーとデューズバーグが二〇〇八年にワシントンの「告発者週間」において顕彰されたことだ。つまり否認主義者たちは、無防備エイズ患者に薬物療法は不要だと信じ込ませただけでなく、有力なオピニオンリーダーたちの支持まで取り付けたのだ。

P.xvi

わたしに付き合ってくれた否認主義者たちは、決して悪い人ではなかったということを記しておかなければならない。彼らは科学に強い猜疑心を持ち、政府と大企業を信用していない。明らかに思い違いをしている人もいれば、愚かにも自分はエイズについて知るべきことをすべて知っていると思い込んでいる人もいる。しかし、邪悪さは感じられなかった。

P.154

否認主義はインターネットで繁殖する。二〇〇〇年代にインターネットが否認主義に及ぼした影響は、一九七〇代に大陸を横断する飛行機がHIVの蔓延に及ぼした影響に等しい。一九九〇年代、否認主義は誕生してすぐにインターネットを介して世界中に広まった。

P.159

なにも知らない人がインターネットでエイズの情報を探している否認主義のサイトを見つけたら、頭が混乱するだろうし、悪くすればその主張をすっかり信じ込んでしまうだろう。悲しむべきことに、否認主義にいちばんひっかかりやすいのは、HIV検査で陽性と診断されたばかりの人や、知り合いがそう診断された人なのだ。インターネットで出会った偽情報にはだれもが当惑するが、大きな不安を抱える人は簡単に引き寄せられる。

P.209

レーガンと同じくネルソン・マンデラも、エイズを自由な国に生まれ変わった南アフリカの優先事項にはしなかったし、レーガンエイズ問題をジョージ・H・ブッシュ副大統領に委ねたのと同様に、マンデラもその問題を副大統領のターボ・ムベキに一任した。歴史はまた,次期米国大統領ジョージ・H・ブッシュがエイズに措置を講じた際には、政治的犠牲がともなったことも伝えている。同性愛者に媚びている、と中傷されたのだ。現在、マンデラエイズについて率直に話し、大統領時代にエイズを優先事項にしなかったことへの後悔を語る。正直なところ、公の場で性について話すのがはばかられたそうだ。このことからも、多くの文化において、性に関する話題がタブー視されていることがわかる。痛ましいことに、マンデラの息子マクガト・マンデラは二〇〇五年にエイズで亡くなった。

P.246

否認主義者はしばしば、エイズ学者は人種差別主義者だと非難して、形成の逆転をはかる。

P.248

同性愛者による同性愛エイズ患者への明かな嫌悪は、否認主義者に見られる奇妙な特徴だが、否認主義者のさらに奇妙な特徴は、エイズ学者をナチスにたとえることだ。

P.252

AZTは、HIVウイルスにさらされてから数時間以内に投与すればHIV感染を防ぐことが広く知られており、現在はレイプの被害者や医療曝露事故にごく普通に使われ、曝露後発症予防措置と呼ばれている。

訳者あとがきより

 著者は、偽情報の流布にはインターネットが大きな役割を果たしている、と指摘します。否認主義者たちは信頼できそうに見えるサイトを立ち上げ、まことしやかに持論を語ります。それも、科学者として地位のある人(例えばデューズバーグは米国科学アカデミーの会員で、カリフォルニア大学バークレー校の分子細胞学の教授です)が、専門用語を交えながら確信を持って語るのです。

【関連読書日誌】

この著者のノーベル賞学者は,否認主義者の一群に入れられている.マルスの主張は,HIVエイズの原因だとする納得にするに足る学術論文が(当時)なかった,というもの.
【読んだきっかけ】
本屋で発見
【一緒に手に取る本】

代替医療のトリック

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