“それは、ある意味で“画期的な”法廷だった。二〇一一年の秋,大阪地方裁判所の裁判員裁判で行われた、「絞首刑」についての審理。” 『絞首刑は残虐か(上)』 堀川惠子 世界 2012年 01月号 岩波書店

世界 2012年 01月号 [雑誌]

世界 2012年 01月号 [雑誌]

堀川惠子がプロヂュースしたNHKのドキュメンタリー番組,ETV特集「死刑裁判の現場〜ある検事と死刑囚の44年」のあるシーンを今でも忘れることができない,ある検事,土本武司に対しインタビューア(おそらく堀川本人)が,問う場面である.たまたまTVをつけただけなのであったが,次第に引き込まれ,番組の緊張感にただ引き込まれ,終了後,プロデュースしたのは誰かと思わず調べたのだった.
 日本において,「死刑制度」は特別な存在である.国際的には,特に先進国では,死刑制度が廃止され,国連から勧告をうけるほどの状況である一方,内閣府の調査によれば,8割の国民が死刑制度を擁護していると言われる.かつての原子力発電と同様に,死刑制度は,日本では,議論することそのものが,避けられているように思えてならない.死刑が求刑されるような,凶悪犯罪と何らかの形で関わりのあった人,法曹関係者,人権問題に関心の強い人たち,それ以外の人たちにとっては,無関心,無関係でいられる問題なのかもしれない.それは,あまりに重い課題だから.
 堀川による2号つづきのレポートの第一報である.

それは、ある意味で“画期的な”法廷だった。二〇一一年の秋,大阪地方裁判所裁判員裁判で行われた、「絞首刑」についての審理。争われたのは、現行の絞首刑が憲法第三六条(公務員による残虐な刑罰の禁止)に違反するかどうか―。法廷で絞首刑についての具体的な審理が行われたのは、五九年ぶりのことだった。

弁護側の鑑定証人として,オーストリア法医学会会長,最高検察庁もと検事の土本武司が出廷するという異例の状況.弁護人,国選弁護人後藤貞人は,「後藤で駄目ならあきらめろ」とまでその仕事ぶりが評される人.後藤にとって,メディアに登場する土本は,「検察よりのコメントをする検察出身の学者」でしかなかった.それが,ETV特集を見て認識を変える.
 ETV特集における堀川の取材を受けた土本について,

 筆者の取材に本音を打ち明けたのは、裁判員裁判によって、一般の市民が死刑に向き合うことになった今しか、墓場に持っていくつもりだった忸怩たる思いを語るべき時はないと決意したからに他ならない。それは同時に、死刑判決という重い義務を市民に課しながら、死刑の実態については秘匿を続け説明責任を果たさない法務省への糾弾でもあった。

【関連読書日誌】

【読んだきっかけ】
本屋にて.ちなみに特集は「原発 全面停止への道」
【一緒に手に取る本】

裁かれた命 死刑囚から届いた手紙

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死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの

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フランスの死刑廃止にむけて闘った弁護士の物語
そして、死刑は廃止された

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『そして、死刑は廃止された』 ロベール・バダンテール, 藤田真利子訳 作品社