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“つまりは,科学ジャーナルは,不正のチェックはしていない,ことになる” 『論文捏造  (中公新書ラクレ) 』 村松秀 中央公論新社

論文捏造 (中公新書ラクレ)

論文捏造 (中公新書ラクレ)

有機材料を使った高温超伝導の研究を行ったベル研の研究者による事故の顛末を語ったもの.第二回科学ジャーナリスト大賞受賞作で,NHKのドキュメンタリーが基になっている.TV番組も各賞受賞.捏造を行ったシェーンは,博士号をとったばかりの研究者であったが,親分のベル研の研究者は,この分野で実績のある著名な研究者.次々からでる素晴らしいデータを伴った論文を,当初誰も疑念に思わなかったのは,連名者にこの名前があったことが大きい.これは,捏造論文によくある構図である.
 捏造から発覚に至る一連の物語としても面白いが,今回の発見は下記.

  • アメリカにはアメリカ研究公正局(ORI)が1992年に設立され,特にバイオ系論文の不正を監視している.なぜならバイオ系論文の不正は,国民の健康管理や医療行政に被害をもたらすから.但し,研究者の評判はよくないらしい.
  • 捏造が学問の世界ではよくあることだが,物理学に世界で起きたこことに驚いた人は多いらしい.確かに,バイオ系論文は,捏造の証明がより困難だ.さしたる結果でない論文であればあるほど,捏造のまま誰にも気付かれない論文は多いだろう.
  • 彼の論文を多数掲載した,Nature,Science誌の編集部は,雑誌編集部に,不正論文のチェック機構はない,責任もない,と断言する.この発言に著者は不信を抱くが,この編集部の考えもわかる.不正をチェックすることはそもそも無理であろう.論文を審査するレフェリーを上手に捏造させた論文の不正を見破ることはできないであろう.
  • かつてベル研では,どんな論文審査よりも,どんな学会発表よりも,ベル研の中の審査を通過することがもっとも難しい,と言われていた.
  • 実験ノートは研究者の命,と言われる.ベル研の場合,ロゴ入りのノートが渡され,退職のときは,返却することが義務づけられている,とか.

結果がインパクトの強いものであればあるほど,いずれはばれるに決まっている.なのに,なぜ捏造論文を量産したのか.それが謎であった.虚言癖のような一種の病気か.これについてのヒントとなる記述が1ッ箇所あった.

 取材の中で感じたことであるが,シェーン本人も,他の誰かが追試に成功するはずである,と高をくくっていた気配がある.これだけの天才的なアイデアを,世界中の超一流の研究技術の持ち主たちが必死に追いかけてくれたら,本当にそれが現実のものになるかもしれない.

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