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“その想いを警報チャイムに込めるために、聴覚や発話に障害があるのを機器で助ける研究を通じて得られた知見や技術をできるだけ生かして音作りを行った” 『ゴジラ音楽と緊急地震速報?あの警報チャイムに込められた福祉工学のメッセージ』 筒井信介著 伊福部達監修 ヤマハミュージックメディア

ゴジラ音楽と緊急地震速報~あの警報チャイムに込められた福祉工学のメッセージ~

ゴジラ音楽と緊急地震速報~あの警報チャイムに込められた福祉工学のメッセージ~

NHK緊急地震速報のアナウンス音の制作物語,といったタイトルであるが,それは,本書のストーリの一つでしかない.伊福部達によって日本で確立された,福祉工学(Assistive Technology)の物語であルと言えよう.そこに,ゴジラで有名な作曲家伊福部昭をはじめとする伊福部家の物語で脚色されている.どれも,これも1冊の本になりそうな魅力的なお話し.
 アイヌ無文字社会,であることを忘れていた.
P.28

前述したように伊福部昭の父・利三は音更村の村長を務め、当時の人としては珍しくアイヌ民族と積極的に交流した。伊福部昭によると、父・利三はアイヌに大変人気があったらしく「シャモ(アイヌの和人に対する蔑称)には惜しい」と言われたとのことだ。
アイヌは文字を持たない民族である。民族の伝承はすべて“ロ伝え”であり、選ばれた巫女が専門職として“語り部”を務める。文字を持たない代わりに、音楽的には非常に豊かな文化を持ち、労働歌、叙事詩、子守唄、舞曲など、生活のあらゆる局面で歌や踊りが存在した。宴席で老人が「今の心情を歌に託せば……」と即興で歌うこともあった。

 1500年先祖を遡れることの凄さ!
P.30

伊福部家が北海道に渡ったのは明治の初年である。もともとは因幡国(いなぱのくに)(現・鳥取県)で大和時代に活躍した豪族で、その後、因幡国一の宮である宇部神社で代々神官を務めた家柄であり、その系図は奈良時代以前まで遡ることができる。系図中には大国主尊(おおくにぬしのみこと)や、新羅(しらぎ)出兵を指揮した武内宿禰(たけのうちのすくね)の名前も見える。先祖の一人、伊福吉部徳足比売(いおきべのとこたりひめ)は文武天皇(六八三〜七〇七)に釆女(うねめ)(天皇や皇后の身の回りの世話をする女官)として仕え、江戸時代に出土した墓誌と骨蔵器(重文、国立博物館所蔵)により、日本で最も初期に火葬された女性であることがわかっている。
余談になるが、甥の伊福部達が“ヒゲの殿下”寛仁(ともひと)親王殿下(寛は旧字)から人工喉頭の開発を依頼されて初めて会った時に一五〇〇年ほど前に、うちの先祖が釆女として天皇に仕えていましたが、その折はお世話になりました」と挨拶したという逸話がある。

P.35

気配の研究はかなり古くから行われていて、一七九〇年代、修道院で視覚障害者を対象に行われた文献が残されている。当時、気配の正体は「音」「皮膚感覚」「電磁波や磁場の変化を捉える感覚」の三つに分類されていた。

きゃー,という叫び声
P.50

4キロヘルツという音域は、通常の発声では出すことができない。一説によると、眉間のところにある軟らかい部分を共鳴させて出しているのではないか、とも言われているが、詳しいメカニズムはわかっていない。
あるオペラの曲には「キャーッ」という叫び声を出す箇所があって、そこは発声の訓練を受けたソプラノ歌手でもなかなか出すことができない。

P.58

入所した伊福部がまず驚いたのは、人工心臓の研究だった。犬を使って人工心臓の研究をしていたのだが、実験に使われる犬の怯えた様子や叫び声、飛び散る血とその匂いに「自分には合わない」と思った。

ハンガリーで電話の研究をしていたベケシーは,ヘルムホルツのピアノ説に疑問をもった
P.64

ベケシーはこのピアノ説に疑問を感じた。ゾウの蝸牛管内の基底膜で振動分布を計測したところ、基底膜が非常に広い範囲で振動することを発見した。つまり、蝸牛管の中ではごく粗い周波数分析が行われているのに過ぎなかったのだ。

P.67

その結果、音刺激を知覚する時間の方が、光刺激を知覚する時間より三十ミリセカンド(千分の三十秒)速いことがわかった。音のスピードは光よりはるかに遅いのに、知覚する時間は聴覚の方が速いのだ。
この実験で、光刺激を弱めるとその差は更に広がり、最大で百ミリセカンド(十分の一秒)になることがわかった。
一方で、光刺激の代わりに指先に刺激を与え、聴覚と比較する実験も行われた。すると、両者の間にはほとんど差がみられなかった。

触覚に関する数多くの基礎研究の中には、なんと麻雀の盲牌の研究まであった。盲牌とは、麻雀の牌をつかんだ時に指の腹で牌の凹凸をなぞり、牌の種類を当てる技術のことである。

特に興味深いのは,NHK番組「ユーカラ沈黙の80年」の制作秘話(URL)と,プロニスワフ・ピウスツキ(URL)の人生.1918年に独立したポーランド共和国の初代国家元首ユゼフ・ピウスツキは弟.
P.94

蝋管を録音したのは、プロニスワフ・ピウスツキ(一八六六―一九一八)というポーランドの人類学者である。彼は没落した貴族の家に十九世紀後半に生まれ、ワルシャワ大学在学中にレーニンの兄を中心とした革命グループに参加して、ロシア皇帝アレクサンドル三世の暗殺を計画する。

P.108

美術修復家は一間しかないアパートに、画家志望の中学生くらいの少女と二人で住んでいた。
彼の話によると、その少女は大変な能力を持っているという。そこで彼女に蝋管を渡すと、しばらく眺めた後に、いきなり蝋管を舌でなめた。そうしてしばらく考えて「大根をこのくらい、タマネギをこのくらい、ニンニクをこのくらい、ぜんぶ摺りおろしなさい」と言った。美術修復家が分量通りの野菜を摺りおろすと、少女が「その絞り汁を脱脂綿に含ませて、カビの生えている所に貼りなさい」と指示した。
言われた通り野菜の汁を染み込ませた脱脂綿を蝋管の表面に貼り、待つこと数十分。
「そろそろいいでしょう」と少女に言われ半信半疑で脱脂綿をはがすと、カビは見事にとれていた。

チャイム音に求められるもの
P.116

(1)注意を喚起させる音であること
(2)すぐに行動したくなるような音であること
(3)既存のいかなる警報音やチャイム音とも異なること
(4)極度に不快でも快適でもなく、あまり明るくも暗くもないこと
(5)できるだけ多くの聴覚障害者に聴こえること

P.179

伊福部の研究は、耳、口、目という感覚/コミュニケーション器官から、手足の機能を支援する福祉工学にも広がっている。
MHアクチュエータは水素吸蔵合金(Metal Hydride)の性質を利用した動作機構のことである。水素吸蔵合金とは、熱を加えると水素を発生し、冷やすと水素を吸収する合金のことで、さまざまな種類がある。
アクチュエータとして使用した場合、少量の水素吸蔵合金で大きな力を発生することから、下肢障害者の持ち上げや移動を補助する機械に応用できるのではないかと考えられた。水素吸蔵合金を製造している日本製鋼所との共同研究で、MHアクチュエータを応用した介助装置がいくつも試作された。

監修者あとがきより

福祉工学は、世界的に最も高齢化が進んでいる日本では、避けて通れない重要な分野であることも何とか多くの人に知って欲しいという想いがあった。その想いを警報チャイムに込めるために、聴覚や発話に障害があるのを機器で助ける研究を通じて得られた知見や技術をできるだけ生かして音作りを行った。

【関連読書日誌】
【読んだきっかけ】
伊福部先生御自身に教えて頂きました.
【一緒に手に取る本】

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多民族国家プロイセンの夢 -「青の国際派」とヨーロッパ秩序-

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