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“聖山とは、そこに生きる人々が、自らの存在を賭けて信じているものである” 『梅里雪山(メイリーシュエシャン)十七人の友を探して (ヤマケイ文庫)』 小林尚礼 山と渓谷社

中国雲南省の最高峰,梅里雪山(メイリーシュエシャン),標高6740を目指す日中合同登山隊17名が遭難したのが,1991年.C3キャンプが大雪崩に巻き込まれた推測され,遺体,所持品とも一切発見されない.
日本の留守本部にいて,その後の対応に奔走したのが本書の著者である.遺族への報告ももちろんその一つ.ある日突然,この世から消えた息子を持つご両親との対面.
 梅里雪山(メイリーシュエシャン)は,連峰を指す名で,最高峰の山はカワカブと呼ばれ,地元と人にとっては,登ってはいけない聖なる山であった.
 著者は,1996年学術登山隊のメンバとなって,梅里雪山(メイリーシュエシャン)登頂を目指すも,あえなく無念の撤退.あれだけの準備を経て編成した登山隊が,ぎりぎりの登山隊長の判断によって,撤退が決まる.著者は,その時の無念をつづる.
 だが,しかし,その後,何度も現地に入って,遺体と遺留品の捜索と回収に携わり、現地の人と交流を重ねるうちに,彼の地の魅力に取り憑かれるとともに,カワカブに登ろうという気持ちなど,自然となくなっていく.その過程の物語が本書の美しい主題.
P.73 1996年,BCを撤退後のこと,

 それだけではない。戦慄するような出来事が起きていたことを、後日聞く。登山隊が一ヵ月以上使用したBCの小屋が、私たちの下山後に大雪崩によって吹き飛ばされていたという。小屋の周囲には大木が生えていた。その年輪を見ると、百年程度は雪崩がきた形跡はなかった。

P.99

 ラサから来たチベット人の明永村の村人は、方言の差が大きすぎてチベット語では会話ができず、漢語で話しをしている。

  • 明永氷河の流速は,一年で200から500メートルと算出され,ヒマラヤの平均的氷河より10倍速い.おそらく世界でもっともはやい.

P.139

ラバのファーミー(メス4歳)の元気がない。そのうち口から泡を噴きはじめる。毒のある石楠花(ちゃくなげ)を食べてしまったらしい。アンドゥイが、舌を引っ張りだして針を刺し治療する。しばらく休むと、何事もなかったかのように回復した。

P.196

カワカブの周辺では、人が死ぬとまず土葬にし、数年後に火葬にしなおすという。この辺りには燃料となる木は多いが、チベット人は肉を燃やすことを忌み嫌う。

P.204 親しくしていた村人が亡くなって

 墓地を取り囲むように、菖蒲の花が咲いていたのだ。百以上の花が開いている。この菖蒲はもともとここに生えていたものではない。村人が畑から移植したものだ。
 墓地の片隅を、息をひそめて僕は見つめた。そこには新しい墓が二つならび、二人のお婆さんが愛用した杖が供えられていた。ひっそりとした墓地に、死を祝福するような不思議な生命感がただよっていた。

P.276

 聖山とは、そこに生きる人々が、自らの存在を賭けて信じているものである。外から来る人間が、登山のためにその信念を踏みにじることが許されるだろうか。僕は、カワカブに登ろうとは思わなくなった。いや、登ってはいけないと思うようになった。

【関連読書日誌】

  • (URL)家族や夫や子供たちを置き去りにして、世界最高所の死臭漂う遊技場へ飛び込んでいこうだなんて、どうすればそんな決心ができるのだろう” 『K2 非情の頂―5人の女性サミッターの生と死』 ジェニファージョーダン 山と溪谷社

【読んだきっかけ】
六本木の青山ブックセンターで発見.懐かしの青山ブックセンター.こういう本屋さんが生活のBCにあるとうれしい.良い本屋です.一気に読みました.恐らく,テレビのドキュメンタリーは見ているような気がします.遭難のニュースは記憶にある.
【一緒に手に取る本】