“本書はまさしく「追想を横糸に、忘却を縦糸としてなされる、自発的想起」による20世紀の物語である” 『野蛮と悲劇の時代 知識人たちの航海』 (『失われた二〇世紀 (上・下)』 トニー・ジャット著 に対する書評) 姜尚中 朝日新聞 2012年2月13日朝刊 

失われた二〇世紀〈上〉

失われた二〇世紀〈上〉

失われた二〇世紀〈下〉

失われた二〇世紀〈下〉

ここで引用するのは,この本ではなく,この本に対する書評である.評者は,姜尚中.評を読んで,新聞を切り取り,すぐに注文.こういうことはなかなかない.姜尚中による書評も,気合いが入っていて,熱いものを感じた.
 こうした書評が,図書館や,朝日デジタルの中に埋もれてしまうのは,惜しい.
 「過去の世紀を想起する必要があるのは」,(ジャットによれば)「新しい世紀が「自由」という単純で眉唾ものの妄想に取りつかれ、世界的規模で20世紀と同じような悲劇と苦しみ、憎悪と絶望をまき散らしているから」だと言う.

そう、新しい世紀で消滅したのは、彼女のような知識人だったのだ。アーレントを含めて、アーサー・ケストラーからエドワード・サイードまで、上巻に収められた20世紀の知識人たちの何と輝いていることか。とくに、ケストラーやプリーモ・レーヴィ、マネス・シュペルバーなど、東欧や中欧のユダヤ系の「根なし草の『世紀の航海者たち』」を描いた件(くだり)は味わい深い。

最近,ハンナ・アーレントを引いている本に多数出会い,アーサー・ケストラーは30年来の友人,プリーモ・レヴィは,昨年,立命館大学国際平和ミュージアムにて,「プリーモ・レーヴィアウシュヴィッツを考えぬいた作家−」なる展示を見,ここ十年ほど,小岸昭や徳永恂によるユダヤ人に関する一連の書物を追っかけてきたものにとって,上記のコメントは見逃せない.マネス・シュペルバーと本書の著者トニー・ジャットは,私にとって初見なのである.
Wikipediaによれば,トニー・ジャットTony Judt、1948年1月2日 - 2010年8月6日)は、イギリスの歴史学者。専門は、フランス現代史、ヨーロッパ史。ALSにより62歳で病没.
【関連読書日誌】

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  • (URL)未来の世界の住民は、ネットワークに触れることで、運命によらず確率によって、動物的な生の安全の閉域から外に踏みだし、社会との接点を回復する” 『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』 東浩紀 講談社

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