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“ニューギニア人のほうが西洋人よりも頭がいいと私が感じる理由は二つある” 『銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎  (草思社文庫) 』 ジャレド・ダイアモンド, 倉骨彰訳 草思社

Guns, Germs, And Steel: The Fates of Human Societies [New Edition]

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ジャレド・メイスン・ダイアモンド(Jared Mason Diamond, 1937年9月10日 - )による,1998年度のピューリッツァー賞(一般ノンフィクション部門)受賞の名著.原著は,1997年,邦訳単行本は2000年刊.朝日新聞が行った読書面が選ぶゼロ年代の50冊で第一位に選ばれたことで知られる.(朝日新聞2010年4月4日)大部であるが,序章だけでも読んでおく価値はあるだろう.
 本書の目的は,端的に言えば,

私がヨーロッパ人よりもずっと優れた知性を持っていると信じるニューギニア人は、なぜ、いまでも原始的な技術で生活しているのだろうか。

という問いに答えることである.なぜ,ある地域では,文明が栄え,他ではそうならなかったのか.この問いに答えるためには,「人種による優劣という幻想」を捨て去らなければならない.

今日、人種差別は、西洋社会で公には否定されている。しかし、多くの(おそらく、ほとんどの!)西洋人は、個人として、あるいは無意識のうちに、依然として人種差別的な説明を受け容れている。日本やその他多くの国々では、人種差別的な説明がいまだ何の言い訳もされないまま、まかりとおっていたりする。アメリカやヨーロッパやオーストラリアの社会では、高等教育を受けた白人でさえも、話がオーストラリア大陸アボリジニのことになると、ァ、ボリジニ自身に原始的なところがあると考えている。たしかに外見的にはアボリジニは白人とはちがう。ヨーロッパ人の植民地時代を生き延びたアボリジニの子孫の多くは、いま、白人が支配する現代のオーストラリア社会で経済的な成功をおさめることのむずかしさを感じはじめている。

 ニューギニア人のほうが西洋人よりも頭がいいと私が感じる理由は二つある。まず、ヨーロッパ人の社会では今日、生まれた子供はたいていの場合、その知性や遺伝的資質に関係なく生きながらえ、子孫を残すことができる。ヨーロッパ人は、数千年にわたって、集権的政治機構や警察組織や裁判制度が整っている人口の調密な社会で暮らしてきたからである。このような社会では、人びとのおもな死因は、歴史的に見て疫病(天然痘など)であって、殺人は比較的少なく、戦争も例外であったから、死に至る疫病を逃れることができれば、人びとは生きながらえて遺伝子を残すことができた。これに対して、ニューギニア人は、疫病が発生しうるほど人口が調密な社会に暮らしていなかった。そのため、ニューギニア人のおもな死因は昔から、殺人であったり、しょっちゅう起こる部族聞の衝突であったり、事故や飢えであった。こうした社会では、頭のいい人間のほうが頭のよくない人間よりも、それらの死因から逃れやすかったといえる。しかし、伝統的なヨーロッパ社会では、疫病で死ぬかどうかの決め手は、頭のよさではなく、疫病に対する抵抗力を遺伝的に持っているかどうかであった。たとえば、血液型がB型やO型の人間は、A型の人間よりも天然痘に対する抵抗力が強い。つまり、頭のいい人間の遺伝子が自然淘汰で残るためのレースは、ニューギニア社会のほうがヨーロッパ社会よりもおそらく過酷だったのである。そして、人口が稠密で、政治機構の複雑なヨーロッパ社会では、遺伝的抵抗力による自然淘汰の比重のほうが高かったのである。
 二つめの理由は、遺伝的なものではない。それは、現代のヨーロッパやアメリカの子供たちが受動的に時間を過ごしていることにある。アメリカの標準的な家庭では、子供たちが一日の大半をテレビや映画を見たりラジオを聞いたりして過ごしている。テレビは、平均して一日七時間はつけっぱなしである。これに対して、ニューギニアの子供たちは、受動的な娯楽で楽しむぜいたくにほとんど恵まれていない。たいていの場合、彼
らは他の子供たちゃ大人と会話したり遊んだりして、積極的に時間を過ごしている。子供の知性の発達を研究する人びとは、かならずといっていいほど刺激的な活動の大切さを指摘する。子供時代に刺激的な活動が不足すると、知的発育の阻害が避けられないとも指摘している。これが、ニューギニア人のほうが西洋人よりも平均して頭がいいと思われる状況に貢献している非遺伝的な理由である。

【関連読書日誌】

  • (URL)“人間がやっかいなのは決して社会の腐敗のせいだけではない” 『震える山―クールー、食人、狂牛病』 ロバートクリッツマン, Robert Klitzman, 榎本真理子訳 法政大学出版局

【読んだきっかけ】
文明崩壊の方を先に読んで感銘を受けた.
【一緒に手に取る本】

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