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“遺言にあらわれているものは、すさまじいまでの孤独感である。枯寂といってもよいであろう” 【森鴎外 熱血と冷眼を併せ持って生死した人】『「一九〇五年」の彼ら』関川夏央 NHK出版

本書の第一章 森鴎外 熱血と冷眼を併せ持って生死した人
鴎外が新聞に連載していた鴎外最後の史伝は,新聞社から中止を要請される.

(略)晦渋すぎて読者がつかないというのである。ついに巨匠鴎外と、現在よりはるかに知識欲に富んでいたとはいえ読者大衆の聞に、越えがたい懸隔が生じたのである。
 鴎外のもっとも熱心な読者であった石川淳は、そのような事態を、「(鴎外の史伝は)婦女幼童の智能に適さないからである」と明快に断じたが、鴎外は時代とともに歩もうとする態度を捨てたのである。「渋江抽斎』には不思議なおもしろさがある。『伊沢蘭軒』はなんとか読み進められる。だが、『北条霞亭』は勘弁して欲しい。それが私の率直な感想である。

当時の大衆は,「現在よりはるかに知識欲に富んでいたとはいえ」と関川は言う.

その十二年後、遺言にあらわれているものは、すさまじいまでの孤独感である。枯寂といってもよいであろう。鴎外は、この遺言を賀古鶴所に托した三日後の早朝、一九二二年七月九日午前七時に息をひいた。
 鴎外には「精進のおそろしさ」を感じると中野重治はいった。同感である。しかし私は、この遺言を透かして、鴎外が十歳の折、西国の小藩津和野を旅立つ後姿を見る。小さな後姿はやがて大きな後姿となったが、それはやはり、前進を生涯やめ得なかった意志的な孤影にはかわりないのである。

遺言から,「すさまじいまでの孤独感である。枯寂といってもよいであろう。」と指摘し,「前進を生涯やめ得なかった意志的な孤影」という.結局ドイツに残し,晩年まで文通を続け,死後全てを焼却するよう賀古に頼んだエリスのこと,陸軍を悩ました脚気のこと,家長としての重しのこと.
【関連読書日誌】

  • (URL)永年の論争に終止符を打つ. 日本文学史上最大の謎,森鴎外舞姫」モデルついに発見”『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』 六草いちか 講談社
  • (URL)“夏漱石はなぜああいうふうに、今あらわれている現代日本ととけこむような作品を書けたのか。今、目前にある日本に必要な批判を作品の中に刻みこむことができたのか” 『日本人は何を捨ててきたのか: 思想家・鶴見俊輔の肉声』 鶴見俊輔, 関川夏央 筑摩書房
  • URL)その感慨は、必ずしも共感だけではなく、違和感であっても、否定感であってもよい、とにかく、人々が、無関心な、英語で言えば〈indifferent〉な状態から一歩抜け出して、色々な体験と思いを交わし合える一つの材料でありさえすれば、それで十分、という思いもあります” 『私のお気に入り ─観る・聴く・探す』 村上陽一郎 集英社

【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】

渋江抽斎 (岩波文庫)

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森鴎外全集〈7〉伊沢蘭軒 上 (ちくま文庫)

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そこまで言われると怖いもの見たさで手に取ってみたくもなる
森鴎外全集〈9〉北条霞亭 (ちくま文庫)

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