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“がんが「がんもどき」と「本物のがん」に分かれることが真実の高みにあると、誰の目にも明らかになるからです” 『 がん放置療法のすすめ―患者150人の証言 (文春新書)』 近藤誠 文藝春秋

がん放置療法のすすめ―患者150人の証言 (文春新書)

がん放置療法のすすめ―患者150人の証言 (文春新書)

がんを宣告されたとき,どこの病院を選択するか,どのような治療を選択するのか,その判断は難しいことが多い.手術をして,QOLを落としたり早死にしたりすれば,不要な手術をしたためだと言われ,手術をせずに悪化すれば,なぜ手術をしなかったのかと,言われるだろう.多くの場合,どちらの場合も正鵠を得ている場合もあれば,的外れな場合もある.でも,自分の命は一つしかない.どんな状況のとき,どういう処置をすれば,どれだけの確率でどういう状況になるかが,わかれば,期待値を最大にするような選択をする,というのも一つの選択である.しかし,そういう数値がわかることは今後もないだろう.
 『全身がん政治家』の与謝野馨は,最初は悪性リンパ腫だから,ここで言う,放置療法の対象にならないが,その後の様々ながんでは,当時の最善の医療を受けてきて,存命である.そういう例もあれば,ここで紹介されているような,放置療法によってQOLの高い生活を送っている人たちもいる.
 ながらく慶応大学で治療にあたってきた筆者の経験は貴重であろう.後書きでも触れられているように,医学界の主流からは異端かも知れない,そして収入につながりにくいこうした治療を認めてきた大学の見識も評価できる.

肺がん,胃がん,前立腺がん,乳がんなどの固形がん(腫瘍をつくる癌)を対象とする.
抗がん剤で治る可能性のある,急性白血病悪性リンパ腫のような血液系のがんは対象外.
固形がんでも,抗がん剤で治る可能性のある,小児がん,子宮絨毛がん,睾丸腫瘍も対象外.
固形がんでも,肝臓の初発がんも,無症状の間に命の危険性が生じる可能性があるので,がん放置療法の対象外.

命の消長に直結するのは,他臓器転移.リンパ節転移は(それが主原因で)死亡することは稀.よって,他臓器転移のある癌を「転移がん」と呼ぶこととする.

  • 前立腺がん
    • 直腸診の茂樹でPSAが流出する可能性あり
    • ホルモン療法は副作用が大きい.一度はじめるとやめられない.高価.
    • 除睾術の効果は顕著.副作用も知られていない.
  • 子宮頸がん
    • 子宮頸部の上皮内がんは「がんもどき」
    • 腺がんは放射線が効きにくいという産婦人科医が多いが誤り.欧米では標準.
  • 乳がん
    • 他臓器転移は初発巣が発見されるかなり以前に成立している
    • 転移はなぜごく初期に生じるのか.「がん幹細胞」が転移能力を持つか否かによる
    • がんが「本物」と「もどき」に分かれる関係で,手術や放射線には延命効果はない.しかし,乳がん(や前立腺がんなど)では,心理対策として(肉体に加える)治療がありうる.
    • 2009年11月米国政府,予防医学作業部会は,「マンモグラフィによる乳がん検診は40代の女性には勧められない」と勧告.
    • 「大腸ポリープがん化説」の誤りが日本人研究者によって指摘されている.これにより「多段階発がん説」はもちろん,すべての「早期発見,早期治療」の根拠は消失している
    • がん幹細胞の存在は,1997年カナダ・トロント大ジョン・ディック教授によって白血病細胞の中から発見された
  • 肺がん
    • リンパ節転移があったときどこのリンパ節かが重要.肺がんでは,縦隔のリンパ節に転移していると,ほぼ確実に臓器転移がある.
    • 放射線は協力なので,転移があるというだけでは放射線治療はしない.痛みのある箇所だけにかける.痛みの箇所が多いときには,薬で鎮痛を図る.
    • 食事療法.痩せすぎてはいけない.コレステロール値を下げてはいけない
  • 胃がん
    • 上皮内にとどまる粘膜内がんは「もどき」が圧倒的.欧米では「がん」と診断されず「異形成」とされる.
    • 昔から外科医の間では,胃がんを手術すると,がんが急速に増大する事実がよく知られている.
    • 私(近藤)は、胃がんの手術で胃を全摘したり、大きく切除したりすることは原則として間違い(誤り)であると,考えるに至っている
    • さらに問題なのは,日本の胃がん手術が,胃の周囲のリンパ節切除(リンパ節郭清)をルーチン化していることである.
  • 腎がん
    • 「ストレスでがんになる」という言説が流布しているが疑問.なぜならがんは遺伝子の病気だから.
    • 「リード・タイム・バイアス(先行期間による偏り)」CT検査を受けた方が,無検査より早くに発見されるので,転移時発見時から亡くなるまでの期間が長くなったかのように見える.

後書きより

 私は2004年に数冊出版した後、もろもろの理由から、すっかり筆を折ったのですが、がん放置患者のその後を見届け、いずれ本にして世に知らしめようと思っていました。
 というのも、がん放置療法が観念論や机上の空論でないと、余すことなく示すことができるからです。
 また、かつて『患者よ、がんと闘うな』で語った、がんが「がんもどき」と「本物のがん」に分かれることが真実の高みにあると、誰の目にも明らかになるからです。
 他方、本書出版が今であるのは、2014年春に定年を迎えるからです。大学病院内の診療記録に接することが可能なうちに、各患者の経過をまとめておきたかったのです。

 そして,何よりも、この日を迎えることなく旅立たれた方々に弔意と感謝を捧げたい。あなた方の幾人かは、私の短慮から、命を縮めてしまった。亡き人に許しを請うのは不可能です。ただ、あなた方が経験した悲痛が、そしてあなた方のことを思い出すたびにあふれる涙が、本書を生みだす原動力だったことを伝えたいと思うのです。

【関連読書日誌】

  • (URL)私は官邸で会議を重ね、ついに「財政構造改革法」という法律を作りました。梶山・与謝野のコンピで成し遂げた仕事のなかで、これは傑作中の傑作です” 『全身がん政治家』 与謝野馨, 青木直美 文藝春秋
  • (URL)統計は全体を俯瞰する方法であって、わたしを知る方法ではない” 『百万回の永訣―がん再発日記  (中公文庫)』 柳原和子 中央公論新社
  • (URL)『難治がんと闘う―大阪府立成人病センターの五十年 (新潮新書)』 足立倫行 新潮社

【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】

成人病の真実 (文春文庫)

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抗がん剤は効かない

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がん治療総決算 (文春文庫)

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あなたの癌は、がんもどき

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