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“「家族」というものはやっかいで、百の家族があれば百の文化が あり、内部での人間関係も多様であるため、リアリティの在り方や受け止め方 も千差万別になります” 『荒野1/7』 高木登 鵺的第五回公演パンフレット  

高木登が主催する鵺的という演劇集団の第五回公演,『荒野1/7』のパンフレット.したがって市販品ではない.鵺的については,こちらのHP
知人の一言「必見」に誘われて,意を決して遠路観に行く.大収穫.当日券,キャンセル待ち券の入手方法を尋ねるため電話したがつながらず.まあやめようかと思っていたら,先方からコールバック.そんな些細なことも背中を押してくれた.
 椅子が7つ観客にむかった横一列にならんでいるだけのシンプルな舞台装置.役者が椅子に坐って語りかけるという演出.それでいて,緊張がゆるむことのない濃密な70分.心揺さぶられる70分.
 配役が絶妙.役者さんたちも素晴らしい.隙のない演出.客席数高々40.演技が少しでも緩んだら,観客に露見するという厳しい環境.
 登場する7人は兄弟.父親が母親(妻)を殺して刑務所入りしたために,7人はばらばらに養子に出されていた.ある事情があって,長男が皆を集めた.病に倒れた父親の延命措置をするのかしないのか,面倒をみるのかみないのか,皆で決めようと持ちかけるのである.子供の頃別れたきりだから,顔や名前はおろかその存在さえもしらなかった人もいる4男3女.父による母殺し,母の子供への虐待,父親の不倫,養子となった7人のそれぞれの今にいたる事情などが,次第に明かされる.
 こうした具体的状況は,あまりに特殊で,普通はあり得ない.なのになぜ強く心に迫るのか.それは,ここに集められた一つの一つの小さなエピソード,7人のそれぞれの家庭環境,老親の介護,親と子の葛藤,兄弟の関係など,小さな一つ一つが,実は,ごくありふれたものだからだろう.7人のどこかに観客自身が重なるのである.
 ハマカワフミエ演じる永遠子と成川知也演じる長男がふたりきりになる最後の場面で,永遠子の秘密が明かされるが,永遠子登場時のなにげないしぐさに,既にヒントがあった.永遠子の最後の絶唱.思わず涙が出そうになる.この二人は高木の母親と伯父がモデルであるという.
終盤,舞台を観ながら,霜山徳爾の次の文章を思い出していた.

ある人が中年にさしかかってミザントロープにならないのは、かつて一度も人間を真に愛したことのない証拠である。またある人が老年にさしかかってミザントロープになるのは、かつて一度も人間に真に愛されたことのない証拠である。前半が判りにくいかもしれないが、これが生の機微である。

心から人を愛したという経験,そして,心から人に愛されたという実感,人生で一度でもいい,そうした経験を持った人は救われる.人は何を頼りに絆をもとめるのか.
【作者の言葉】より

図書いているような気がするのですが、作品がお客様にどう受け止められるのかまったく想像がつきません。特に今回はモチーフが至近にあるものですからよけいです。「家族」というものはやっかいで、百の家族があれば百の文化があり、内部での人間関係も多様であるため、リアリティの在り方や受け止め方も千差万別になります。なんとか客観性を保つため根幹はフィクションにしましたが、「こんなのありえない」と受け取る方もおられると思います。けれどこれが自分の見てきた「現実」のうつし絵です。母の名前は登和子といいます。登の名前はここからもらったものです。不惑をすぎてようやくこの世に生を享けたことを感謝する気持ちになりました。されど「ありがとう」と心から言うのには抵抗があります。そんな内面を作品にしました。どうか最後までおたのしみください。

【関連読書日誌】

  • (URL)心理療法には、どうしても譲ることのできない点がある。それは、人間というものは、憎しみを分かつためではなく、共生共苦の慈悲を分かつために生まれてきた、ということである” 『素足の心理療法  (始まりの本) 』 霜山徳爾, 妙木浩之[解説] みすず書房
  • (URL)生きていくことは、 後悔と溜め息を重ねていくこと。 それでも、生きていくことを、 自分からは辞めてはいけない。” 『深呼吸する惑星』 鴻上尚史 第三舞台 封印解除&解散公演パンフレット
  • (URL)男にも女にもいろんな生き方があり、いろんな幸せがあるのだということが、この国の常識になるのはいったいいつの日だろう” 『如月小春は広場だった―六〇人が語る如月小春 』 『如月小春は広場だった』編集委員会(西堂行人+外岡尚美+渡辺弘+楫屋一之) 新宿書房

【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】
鵺的の第1回公演『暗黒地帯』第2回公演『破滅』のDVDは,こちらから入手可能みたい.
「荒野1/7」のキャスト・スタッフ

[キャスト]
荻野真司:成川知也
進士康輔:平山寛人(鶴的)
大西理佐:古市海見子
山埼和紀:山ノ井史(studio salt)
宗田孝弘:小西耕一
御厨永遠子:ハマカワフミエ
野島みずき:森南波
[スタッフ]
照明/千田実(CHIDA OFFICE)
舞台監督/福田寛
演出助手/構本恵一郎
衣装/中西瑞美(ひなぎく)
宣伝美術/詩森ろば(風琴工房)
舞台写真撮影/石津知絵子
ビデオ撮影/安藤和嶋(C&Cファクトリー)
制作/鶴的制作部.J-StageNavi(島田敦子・早川あゆ)
制作協力/contrail(加瀬修一)