“そのような「共通の思いや解釈の断片」を収集するうえで著者が重要な出発点としているのは、音楽を安直に「精神的抵抗」のシンボルへと神話化しない、という態度である” 『「精神的抵抗」という神話から音楽を救い出す』 細身和之 パブリッシャーズ・レビュー 2012年9月15日 第8号
- 作者: シルリ・ギルバート,二階宗人
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2012/09/11
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ナチスが強制収容所で組織した「音楽隊」とは別に,ゲットーの住人,パルチザン,収容所に捕らわれた人々によって秘かに歌われた歌があるという.それらに,陽の光をあてたことだけが本書の価値ではない,と細身氏は言う.「精神的抵抗」というステレオタイプ(神話)から,それらの音楽を救い出すことにあり,「音楽を救うー『精神的抵抗』を超えて」という序章のタイトルにその意図が表れている,という.ものごとを正しくみる,ということは,できるだけ多方向からみること,丁寧にみること,によってしか不可能なのだ,ということをあらためて思うのです.
ナチに対する抵抗か協力か、そういく二分法にはけっして収まらないそれらの歌を一つでも多く甦らせること、そこに著者は途方もないエネルギーを注いでいる。なぜなら著者によれば「歌は、自分たちの痕跡をほとんど残さなかった集団が、口伝えし、そして保ちつづけた共通の思いや解釈の断片」(本書、19ページ)だからである。
(略)
そのような「共通の思いや解釈の断片」を収集するうえで著者が重要な出発点としているのは、音楽を安直に「精神的抵抗」のシンボルへと神話化しない、という態度である。
著者によれば、ゲットー住民や収容所抑留者各層のはなはだしい格差を背景にして、ホロコースト下の「音楽」が私たちに伝えてくれる経験はもっと微細で複雑であって、そういう襞に視線を届かせないかぎり、その音楽を、あるいは音楽的体験を、ほんとうの意味で「救う」ことはできないのだ。
プリーモ・レーヴィの「グレー・ゾーン」:極限的状況ではだれも潔癖ではありえない
本書は,イディッシュ語,ポーランド語,ヘブライ語,ドイツ語,フランス語の理解がその研究の前提になっているという.
【関連読書日誌】
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- (URL)“とるに足らぬ人生などというものは存在しない。ただ照明が当てられるかどうかが問題なのだ。あの日、照明器具は、一九四一年同様、不良品だった。” 『密告』 ピエールア・スリーヌ 白井成雄訳 作品社Comments
- (URL)“何千もの幸運な偶然によって、あるいはお望みなら神の奇跡によってと言ってもいいが、とにかく生きて帰ったわたしたちは、みなそのことを知っている。わたしたちはためらわずに言うことができる。いい人は帰ってこなかった、と” 『夜と霧 新版』 ヴィクトール・E・フランクル 池田香代子訳 みすず書房
- (URL)“恐るべきは国家の犯罪である。弾劾さるべきは、理想に名を借りて犯罪を目的化した国家のイデオロギーである。” 『カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺』 ヴィクトル・ザスラフスキー 根岸隆夫訳 みすず書房
【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】
ナチスの側の音楽隊の実態
- 作者: シモンラックス,ルネクーディー,大久保喬樹
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