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“柄谷の念頭にある「イソノミア」という概念は、それの歴史的起源をあえて古代ギリシアのイオニアに求めるようなことをせず、...ひとつの統整的理念として彫琢していったほうがよほど生産的ではないのだろうか” 『イオニア的』 ヘテロトピア通信39 上村忠男 みすず 2013年4月

みすず 2013年 04月号 [雑誌]

みすず 2013年 04月号 [雑誌]

柄谷行人氏の新著『哲学の起源』,広告や書評を見かけるようになった.(私は読んだことがないのだが)その著書がたいへんよく読まれてきた批評家であるし,岩波書店刊だし,タイトルもそそられる.本書の広告や書評を目にする前に読んだのが,この上村忠男氏の文章.『atプラス』という雑誌に掲載された,納富信留氏による論考を紹介している.『atプラス』なる雑誌をはじめて知り,思わず買ってしまった.
 人気批評家とはいえ柄谷行人の読者層は限られるだろうし,『atプラス』なる雑誌を読む人はさらに少ないだろう.いわんや「みずず」をやである.だが,高々2ページの小文だからこそ,こうして私でも読んで理解できるのである.

柄谷行人『哲学の起源』(岩波書店、2012年)を読み進めながら「これはひょつとすると」と危惧してたところ、案の定、ギリシア哲学研究の専門筋からさつそく批判の矢が放たれた。国際プラトン学会前会長、納當信留(のうとみのぶる)が『atプラス』15号(2013年2月)に寄せた「古代ギリシアと向き合う−取新の歴史•哲学史研究の成果から」といぅ論考がそれである。

要するにす,納富によるとアーレントをはじめ、ハイエクポパーなど西洋の思想家がこの概念を殊更に取り上げてきたのは、《主に「民主主義」の起源をめぐる自己の問題意識の投影》にほかならないのだった。こうしてまた納富は言うのである。《私自身は、近代の政治イデオロギーにおいて歴史の文脈を離れて持ち出された「イソノミア」は、古代ギリシアの精神というよりも、近現代現代に構成された理念であると考えている》と。

そして結論するのである。柄谷が描き出しているのは現実に古代に存在したイオニア社会のことではなく、《著者が理念的に推測した、あるいは空想的に構築した「イオニア」という名の蜃気楼》であろう、と。「史料」の欠如を「イオニアの思想」の傍証によって補おうとする柄谷の手続きについても、《これは方法論的に循環であり、論証とは程遠い》と切って捨てている。
 まことに手厳しい批判である。ほとんど全否定に近い。

 それにどうだろう。柄谷の念頭にある「イソノミア」という概念は、それの歴史的起源をあえて古代ギリシアイオニアに求めるようなことをせず、あくまでも超越論的なスぺキュレーションのレヴェルにおいてひとつの統整的理念として彫琢していったほうがよほど生産的ではないのだろうか。

統整的理念(regulative Idee)と構成的理念(konstitutive Idee)は,カントの用語.
【関連読書日誌】

  • (URL)駆けだしの研究者であったころ、自分の研究の意味と価値を世間に説明するのは無用で不純だと思っていた” 『発見術としての学問――モンテーニュデカルトパスカル』 塩川徹也 岩波書店
  • (URL)“むしろ専門的知識や技能を棚上げにして、現場に身をさらすこと。そのときに初めて、付き添いさんの知恵というか、眼力の要となるところがおぼろげながらも見えてきます” 『語りきれないこと 危機と傷みの哲学  (角川oneテーマ21) 』 鷲田清一 角川学芸出版

【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】

ヘテロトピア通信

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知の棘――歴史が書きかえられる時

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裁判官と歴史家 (ちくま学芸文庫)

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哲学の起源

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atプラス15

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