“ナチス•ドイツの焚書は、世界の注目を集めた。最も早く、最も痛烈な非難の声をあげたのはフランスであった” 『ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫) 』 角田房子 新潮社
- 作者: 角田房子
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- 発売日: 1985/02
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角田房子(つのだ ふさこ、女性、1914年(大正3年)12月5日 - 2010年(平成22年)1月1日)は、日本のノンフィクション作家、日本ペンクラブ名誉会員。(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A7%92%E7%94%B0%E6%88%BF%E5%AD%90)
田中路子(たなか みちこ、1909年7月15日 - 1988年5月18日)は、日本の女優、声楽家。その生涯の半生以上を欧州で過ごした。「MICHI」の愛称でドイツ語圏で有名だった。(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E4%B8%AD%E8%B7%AF%E5%AD%90)
最初の恋人が齋藤秀雄(7歳年上),最初の夫が.ユリウス・マインル2世(40歳年上,Julius Meinl II. 1869-1944),その後の恋人が,カール・ツックマイヤー(Carl Zuckmayer:1896-1977,ドイツの劇作家・脚本家),二番目の夫が,ヴィクター・デ・コーヴァ(Viktor de Kowa、1904-1973).本書では名前が明かされていない,最後の恋人が,恐らく,エゴン・バール(Egon Karlheinz Bahr、1922年- ドイツSDPの政治家.13歳年下)
P.52 1933年5月10日
ユリウス・マインルは、それが何かを知っていた。行列の間には無数の書物を満載したトラックがはさまっていた。「非ドイツ的」図書を公衆の面前で焼き捨てようというのである。アインシュタイン、フロイト、マルクス、エンゲルス、ロ―ザ•ルクセンブルク、シュニッッラー、ハインリッヒ•マン、トーマス•マン、シュテファン•ツヴァイク、エ―リヒ•ケストナー......。
マインルは路子を伴って、ホテルからほど近い国立歌劇場とフンボルト大学が向かい合うオペラ広場へ行った。群衆の頭ごしに広場中央から、雨に勢いをそがれた火焰と黒煙が陰鬱に立ち昇っていた。
路子が最初に聞いたのは「エーリヒ・マリーア・レマルク『西部戦線異状なし』」と呼び上げる声だった。雨に衰える火に松明が投げ入れられ、大勢が強まると歓声と拍手があがった。路子はわけもわからず震えた。マインルに身をよせ、彼女のたくまぬ最高演技である甘えた顔で夫をふり仰いだとき、はっと電流に打たれる思いをした。
マインルのこんなに恐しい形相を、路子はかって見たことがなかった。深い悲しみを秘めた憤怒。激情をせき止めるように堅く唇を嚙みしめていた。
P.53
ナチス•ドイツの焚書は、世界の注目を集めた。最も早く、最も痛烈な非難の声をあげたのはフランスであった。
日本でもさまざまな反響があった。評論家新居格(にいいたる)らを中心に、ヒトラーの文化破壊の暴挙に抗議する署名運動が始められたのも、その一つであった。
当時の新聞を調べると、五月二十八日付の読売新聞がこの焚書の特集をしている。哲学者西田幾多郎が暴力による文化の抑圧を非難しながらもヒトラーの行動に理解を示し、マルキスト石浜知行が同じくナチスを厳しく非難しながらも自由主義的文化人の抗議運動に否定的な見解を述べ、いずれも時流に及び腰である中で、作家大佛次郎の〈時代に光あれ=ナチスの焚書抗議〉と題する一文は、ひとすじの激しい怒りに貫かれている。
大佛は、ナチスが他国の言葉に耳をかすはずもないと知りながらあえて抗議をする理由を、次のように述べている。
〈ナチスの暴圧の下にも、なお明日の暁を待っている真実のドイツ人が少なくないと信じるからである。声をふさがれているその人たちの苦悶に、僕らは手を伸ばそう。大陸の果てに、ドイツの明るい未来を確信している外国人のあることを明白に伝えよう〉
マインルはドイツ人ではないが、この呼びかけの対象となるべき人々の一人であった。大佛の<……明瞭なのは、この中世的な暗黒に、いつまで人が耐えていられるかと云うことだ。人間がそこまで愚な答がない〉という一節は、そのままマインルの心情であった。
大佛はこの文中で〈……僕らもまた、僕ら自身の手傷を抱いている。ここでも空気は重苦い〉と、日ごとに抑圧的な軍靴の音の高まる日本の現状に触れている。中国の戦線は拡大の一途をたどり、ナチス焚書の一ヵ月前には日本軍が長城線を越えて、中国主要部に侵入を開始していた。
P.200 1962年路子の引退公演
後援会名簿には各界の人々百六人が名を連ねている。五所平之助、池島信平、川口松太郎、京マチ子、大賀典雄、大町陽一郎、八千草薫、新珠三千代、犬養道子、大屋晋三、司葉子、牛山喜久子、川咨多長政夫妻、三船敏郎、月丘夢路、山野愛子、池部良、森田たま、田中千代、徳川夢声、雪村いづみ等、等――路子がベルリンで日本人の世話に明け暮れた日々が目に浮かぶような顔ぶれである。
P.235
そこには路子が面倒をみた音楽家たちについて「長男が大賀典雄、次男が小澤征爾、三男は若杉弘、四男が荒憲一というところかな」という談話がある。
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