“物は何も語りはしない。  しかし雄弁にもできる。  真実を語らすことも、嘘に利用することも。” 『桶川ストーカー殺人事件―遺言』  (新潮文庫) 清水潔 新潮社

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

涙なくしては読めない本である。日本の警察機構、マスメディアのあり方に、一石を投じる書。単行本が2000年刊、文庫本が2004年刊であるから、時間からもうかなり長い月日がたったことになる。日本ジャーナリスト会議JCJ)大賞受賞作である。TV化も三度されたらしい。
 見返しには、被害者となった、猪野詩織さんのカラー写真が添えられている。これも珍しいことだ。普通の、ごく普通の女子大生が、なぜ事件に巻き込まれたのか、なぜ防ぐことができなかったのか、どうしてあのような報道がなされたのか、根は深い。
 心から救おうとする人、真実をしろうとする人が一人いたことによって、事実が明らかにされたことがせめてもの救い。大勢の傍観者がいても何の役にもたたないのだ。
文庫版あとがき、より

 娘の名誉のために闘うという二人は、娘を助けられなかったことに懺悔の気持ちすらあるというが、お二人の強さの源は、詩織さんが残していった様々のものにある。言葉や遺書、そして遺品に。
 物は何も語りはしない。
 しかし雄弁にもできる。
 真実を語らすことも、嘘に利用することも。

巻末に寄せられた、猪野憲一さんの文章「文庫化に寄せて」より

本書には、人に与えられただけの垂れ流しの情報によってではなく、自らの研ぎ澄まされた直感と信念によって、真実を探りだそうと猛烈に突き進んだひとりの報道陣の行動の結果が記されている。
 この事件の真実を求める多くの人たちに、この事件がどのようなものだったのか、また、報道を志す人々に、報道する人間が真にもつべき姿勢とはどのようなものか、この本を手にすることで分かって頂けると信じ、心から願っている。

【関連読書日誌】

  • (URL)“「一番小さな声を聞け」というルールに従うなら、この場合、被害者遺族がそれだ。手紙を書き、末尾に自分の携帯の番号を書き入れてポストに入れた。私は手紙ばかり書いている” 『殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』 清水潔 新潮社

【読んだきっかけ】『殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』を読んで。
【一緒に手に取る本】