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“彼は現役の大統領でありながら、明らかにアメリ力の知的少数派に属している” 『詩人フロストとオバマ大統領』 川本皓嗣  図書 2014年 09月号  岩波書店

図書 2014年 09月号 [雑誌]

図書 2014年 09月号 [雑誌]

アメリカ大統領としてのオバマへの評価は,現在必ずしも高くない.黒人の血をひく大統領として,リベラル民主党の党首として期待されたはずだが,指導力においても,外交政策においても疑問視する声が多い.だがしかし,である.大統領選当時出版されたオバマ候補に関する本によれば,かれが長い間,アメリカのリーダになるための資質を獲得するために,どれだけの努力を積み重ねてきたかが語られていた.あれだけの研鑽を準備を重ねている日本の政治家がいるのだろうか.
 比較文学を専門とする川本皓嗣氏が,2014年4月24日のオバマ大統領歓迎宮中晩餐会へ招かれた時のことを語っている.詩人ロバート・フロストに関するものである.
wikipedia によれば(ロバート・フロスト, http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%95%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%88&oldid=52188409 (last visited Sept. 13, 2014). )

ロバート・リー・フロスト(Robert Lee Frost, 1874年3月26日 - 1963年1月29日)はアメリカ合衆国の詩人。作品はニューイングランドの農村生活を題材とし、複雑な社会的テーマや哲学的テーマを対象とするものが多く、大衆的人気も高く人口に膾炙した。生前から表彰されることもしばしばで、ピューリッツァー賞を4度受賞した。

 オバマ大統領が,アメリカの詩人について語るのと同程度の広さと深さで,日本の詩人について語ることができる政治家は誰であろうか.

 侍従らしき方が大統領に、東大名誉教授(比較文学)と私を紹介してくださった。「何を研究しているか」と大統領に訊ねられたので、「アメリカ、イギリス、フランス、日本、そして少々中国の詩」と申し上げると、「そう、世の中には政治や金なんかとは別に、大事なことがたくさんある」、という旨のことを話された。まことに仰せのとおり。「あなたは自分で詩を書くか」と問われたので、いや、書きません。下手な詩を書くと、評者(critic)としての面目にかかわるから」と申し上げた。大統領は笑って、「アメリ力の詩を日本で教え広めてくださって、まことに有難う。ところて、アメリカの詩人で誰がえらいと思うか」と訊ねられた。とつさにフロストの名を忘れて、「ウイリアム・カーロス・ウイリアムズ、ウォーレス・スティーヴンズ、エミリー・ディキンソン」、それから家内に確かめて、「ロバート・フロスト」とお答えした。
 驚いたことに、オバマさんはすぐ「その中ではディキンソンが最高だ」と断言された。私は全く同感だと答え、その上で、「フロストはいつも低く見られる傾向があるが、実は」と言いかけると、オバマさんは「そう、たいへん人気があるし、詩もやさしそうに見えるので、軽視されがちだが、その言葉をじっくり読み味わうと、表現は絶妙だし、意味は深く、かなり難解だ」と、力をこめて話された(正確な英語を忘れたので要旨のみ)。フロストという、いろんな偏見にも包まれた容易ならぬ詩人について、現大統領がずばりと的を射た批評を下されたので、私はただただ驚嘆し(食事のときの酒も手伝って)、つい"You're damn right!"と叫んでしまった。大統領は破顔一笑、そばのアメリカ人の通訳が大笑いされた。

だが、彼がフロストを論じる口ぶりが、大多数の読者のそれとはまったく異なって、ジャレルの言い方(「フロストの考えの本当の複雑さ、知的洗練、そして曖昧さ、(…)彼の詩の幅と深さと高さ」)にそっくりだつたことは、彼がフロストを「畏敬の念をもって」じかに熟読したことを物語っている。その点に関する限り(あるいはむやみに戦争をしかけたりしないことなど、他の多くの点でもそうかもしれないが)、彼は現役の大統領でありながら、明らかにアメリ力の知的少数派に属している。その驚きが一瞬、私に慎みを忘れさせたのだ。
 もっとも、オバマがフロストをよく知る最初の大統領であるかどうか、うかつに断定することはできない。一九六一年、ケネディ大統領が就任式にフロストを招き、アメリカ史上初めて詩人に自作を朗誦させた。「無条件の贈与」The Gift Outrightがそれである。しかもそ
の時、ケネディは最終行のwouldを、その場にふさわしく willに変えてはどうかと提案したというのだから、フロストへの理解と親愛感も、けつして並みのものではなかつただろう。

素朴で大らかそうな外見に反して、フロストの詩は、内に底なしの暗さをかかえている。

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  • (URL)“あのときの中曽根元首相のスピーチはほんとうに素敵だった” 『30年の物語  (講談社文庫) 』 岸恵子 講談社

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