“日本政府の狩猟行政も誤っていました。戦後のー時期に滅少したシカを保護するた 行ったメスジ力の禁猟措置を、これだけ全国的にシカが増えている現在でさえ、まだ継続しているのです” 『ぼくは猟師になった』  (新潮文庫) 千松信也 新潮社

ぼくは猟師になった (新潮文庫)

ぼくは猟師になった (新潮文庫)

 京都大学を出て、本当に猟師になった著者によるエッセー、記録。なるほど、猟師とはこういうものかとたいへんよくわかる。著者の前書きで本書の意図は明快。

 僕が猟師になりたいと漠然と思っていた頃、「実際に猟師になれるんだ」と思わせてくれるような本があれば、どれほどありがたかったか。
 確かに、世の中に狩猟の技術に関する本やベテラン猟師の聞き書きのような本はありますが、「実際に狩猟を始めてみました」という感じの本は見たことがありません。ましてやワナ猟に関する本は皆無に等しいです。
(中略)
 そこで、本書では、具体的な動物の捕獲法だけでなく、僕がどういうきっかけで狩猟をしたいと思い、実際に猟師になるに至つたのかも詳しく書いています。また、獲物を獲ったり、その命を奪った時、そして解体して食べた時の状況をなるべく具体的に書き、その料理のレシピなども紹介しました。
 本書を読んで、少しでも現代の猟師の生身の考えや普段の生活の一端を感じていただけたらありがたいです。そして、僕より若い世代の人たちが狩猟に興味を持つきっかけになれば、これ以上うれしいことはありません。


目次

第1章 ぼくはこうして猟師になった
 妖怪がいた故郷
 獣医になりたかった
 大学寮の生活とアジア放浪
 「ワナ」と「網」、ふたりの師匠
 飼育小屋のにおいがして...初めての獲物
 「街のなかの無人島」へ引っ越す
第2章 猟期の日々
 獲物が教える猟の季節
 見えない獲物を探る
 ワナを担いでいざ山へ
 肉にありつく労力
 シカ、シカ、シカ、シカ、シカ 
 野生動物の肉は臭い? 硬い?
 猟師の保存食レシピ
 毛皮から血の一滴まで利用し尽くす
 力モの網猟は根比べ
 スズメ猟は知恵比べ
 イノシシの味が落ちる頃
第3章 休猟期の日々
 薪と過ごす冬
 春のおかずは寄り道に
 夏の獲物は水のなか
 実りの秋がやってきて、再び
あとがき・文庫版あとがき・解説(伊藤在)

P.79 見えない獲物を探る

 ワナのパーツのなかで一番においがきついのが鋼鉄製のワイヤーです。これだけ不法投棄などで山のなかが鉄くずだらけになっている今、あまり気にしなくてもよいのかもしれませんが、鉄のにおいはけものが嫌うと昔から言われています。確かに、畑を囲むトタンの柵の下を掘って侵入するイノシシもいますし、鉄製の檻でもエサでおびき寄せればイノシシは獲れます。ただ、自分が普段使っている道に突如として鉄製のものがあらわれるとなれば話は変わってくるはずです。僕はワナをしかけたその日からイノシシがその道を通らなくなるということを何度も実際に経験しています。間違いなくその場所に残ったにおいや気配を察知し、嫌がっているのです。

P.97 ワナを担いでいざ山へ

タヌキやキツネは先輩猟師から言われていたとおりやっぱり臭かったです。煮ても焼いても食えないとはまさにこのこと。毛皮獣と呼ばれる由縁がわかった気がしました。
 アライグマは、全国的に急増している外来種で、〓友会に駆除の依頼が来ているほどです。やはり数が多いのでたまにワナにかかります。これも一度食べてみました。原産地である北米のインターネットサイトを調べたところ、「シチューなどにして食ぺる」と書いてあったので、そのレシピを参考にしました。意外にも普通に食べられるのですが、とりたてておいしいわけでもありません。
 それにくらべ、一度だけ獲れたアナダマは非常に美味でした。まるまる太った体にはたっぷりと脂がのっていて、焼き肉にしても煮物にしてもおいしかったです。アナグマは、地方によってはムジナと呼ばれていますが、別の地方ではタヌキがムジナと呼ばれており、よく混同されます。昔話などで猟師がつくるタヌキ汁やムジナ汁は、たいていアナグマ汁のようです。

P.99 肉にありつく労力

雨のあとや急に気温が下がった日などは、獲物がかかることが多いのです。ワナについたにおいが雨で落ちるからとも、気温の下降で冬が近づいていると思った動物たちが、焦って活発に餌を求め動き回るからとも言われています。また、果樹園で働く友人は、雨のあとは木の実がたくさん落ちることを動物たちが知っていて、必ず餌を探しにくると言っていました。これもなかなか説得力のある説だと思います

P.123 シカ、シカ、シカ、シカ、シカ

日本政府の狩猟行政も誤っていました。戦後のー時期に滅少したシカを保護するた
行ったメスジ力の禁猟措置を、これだけ全国的にシカが増えている現在でさえ、まだ継続しているのです。一夫多妻制のシカの場合、メスを獲らなければ、どれだけオスを獲ってもシカは増えていきます。

P.131  野生動物の肉は臭い? 硬い?

 野生動物の肉は硬いと思われているのも、よくある誤解のひとつです。
 動物の肉は、ほとんどの場合、若ければ若いほどやわらかく、歳を取れば取るほど硬くなります。イノシンも例外ではなく、若いイノシシの肉は市販の豚肉のよぅにやわらかいです。

P.155 毛皮から血の一滴まで利用し尽くす

 イオマンテという儀式では、春に捕まえた小グマを一年間、村で育て、お祭りのあとそのクマを殺し、村のみんなで食べます。戦後、野蛮な儀式だと五十年以上にわたり、通達によって禁止されていましたが、環境省が伝統的な祭式儀礼であると認め、ニ〇〇七年にそれがようやく撤回されました。

P.178 スズメ猟は知恵比べ

さらにカラスの剥製を設置します。カラスは賢い鳥のため、スズメはカラスがいる場所を本能的に安全な場所だと察知するらしく、カラスと一緒にいることが多いです。その習性を利用します。

【関連読書日誌】
(URL)“なぜ私は自ら豚を飼い、屠畜し、食べるに至ったか” 『飼い喰い――三匹の豚とわたし』 内澤旬子 岩波書店
(URL)“以前は人が獣類を圧倒していたのに、いまや人が獣類に負け始めている” 『女猟師』 田中康弘 エイ出版社
【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】

女猟師

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