『ふたつの嘘 沖縄密約[1972-2010] 』 諸永裕司 講談社
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ふたつの嘘 沖縄密約[1972-2010] (g2book)
- 作者: 諸永裕司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/12/22
- メディア: 単行本
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本書は,そうした疑問に答えるかのようにタイミング良く出版され,西山事件と事件後から今日までの戦いを二人の女性に焦点をあてて記録したものである.一人は西山太吉夫人の西山啓子さん,もう一人は,情報公開訴訟を戦った弁護士の小町谷育子さんである.ともすると興味本位の記述になりがちであったり,マスメディアのあり方に関するステレオタイプ化された論調になりがちな西山事件について,二人の女性の生き方を丹念に追うことによって上質なノンフィクションに仕上げている.二人の女性が戦う相手は,国家,官僚,マスメディア,隣人,家族など,それぞれ多様である.
本書だけでも十分に読み応えがあるが,本書を読む前に,西山事件についてwikipedia あたりでさらっておくか,『密約―外務省機密漏洩事件 (岩波現代文庫)』(澤地久枝),『沖縄密約―「情報犯罪」と日米同盟 (岩波新書)』(西山太吉)あたりを読んでおくと,本書が数倍面白く読めるであろう.前者は澤地久枝のデビュー作である.
本書で特に忘れられない光景は,澤地久枝との邂逅シーンである.一つは,2009年春,澤地が小倉に西山夫妻を訪ねてくるところ.西山夫人と澤地が二人だけで会話をした20分間のことは,大切にしまっておきたいと夫人は言う.もう一つは,会見の場で同席した,西山太吉本人と澤地とのやりとりである.『密約―外務省機密漏洩事件 (岩波現代文庫)』を書いた澤地と西山夫妻は,お互い会うことがなく何十年が過ぎていた.強い信念をもって生き抜くことの大切さを感じる.
最後に,一昨年来,本書をはじめとして沖縄密約問題に関する本を読み進めている中での個人的なエピソードを二つほど.
(その一)『詭弁論理学 (中公新書 (448))』は,野崎昭弘によって書かれた名著(1976年刊,中公新書)であり,今でも読まれているらしい.日常生活における論理の技術を具体例とともにわかりやすく解説した本である.あるきっかけがあって,高校時代以来三十数年ぶりに手に取り,読み流してみて驚いた.この本では,詭弁をいくつかの種類に分けて解説しているのであるが,そのうちの一つの実例として,西山事件の検察(国)側の論理が取り上げられているのである.当時私は,西山事件のことは知らずに読んでいた可能性が高い.
(その二)昨年2月,つかこうへいの最後の演出となった「飛龍伝 2010 ラストプリンセス」を新橋演舞場で観た.私が初めて芝居というものに触れたのは,1979年9月高田馬場の線路沿いの小さな劇場(東芸劇場)で観た「初級革命講座 飛龍伝」 であり,その時の衝撃を昨日のことのように思い出すだけに,30年経ってつか最後の舞台を観られたことは幸せであった.この「2010ラストプリンセス」の舞台が沖縄なのである.「飛龍伝」は,その物語の時代背景として日米安保と全共闘があるのだが,若い聴衆にはこの舞台設定そのものがもはや理解不能なのではないかと思った.私の年齢(49)でも安保や全共闘は,自分より一世代,二世代昔の物語であり,その時代の雰囲気がかろうじてわかるというところである.立花隆が「文芸春秋」に「今の学生にとって有史とは,2001年9月11日以降のこと」と書いていた記憶があるのだが,確かにそうであろうと思う.ヒロインを演じた1988年沖縄生まれの黒木メイサが,この舞台のメッセージをどう受け止めていたのかは,気になるところである.
【読んだきっかけ】講談社のノンフィクションG2のWEBページで発見.沖縄密約そのものへの興味は,若泉敬の評伝『「沖縄核密約」を背負って 若泉敬の生涯』と文藝春秋に連載されていた山崎豊子の『運命の人(一) (文春文庫)』による.
【一緒に手に取る本】

- 作者: 澤地久枝
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/08/17
- メディア: 文庫
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- 作者: 西山太吉
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/05/22
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- 作者: 山崎 豊子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/12/03
- メディア: 文庫
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- 作者: 野崎昭弘
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1976/10/25
- メディア: 新書
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