『核がなくならない7つの理由  (新潮新書)』  春原剛 新潮社

核がなくならない7つの理由 (新潮新書)

核がなくならない7つの理由 (新潮新書)

核の問題は,日本においては扱いにくい問題である.これは非常に残念なことである.広島,長崎の悲劇を経験しているから,ともすると感情的になりがちであるし,ややもすると政治的な,思想的な文脈から捉えられてしまう.核を議論することさえ,一般の人,市井の人には,タブーであったりする.繰り返しになるが,これは非常に残念なことである.核の抱える問題の重要性を考えると,このままであってはいけないであろう.

核の問題を,冷静に,客観的に,そして,科学的に議論できる環境を作らなくてはいけない.ところが,客観的かつ科学的に議論する,ということは,核の問題でなくても,じつは以外に難しい.冷静に科学的に議論ができるのであれば,世の中の多くの問題は片付いているはずなのである.科学的とはどういうことか,という根源的な問題に行き当たる.

さて,このような核の問題に関する背景があるので,本の選び方も慎重にしないといけない.難しい.本書のタイトル『核がなくならない7つの理由』について,著者自身があとがきで「やや斜に構えたタイトル」と自ら書いているが,このタイトル故に,本書を読む進めるまでは,疑心暗鬼であった.

「核なき世界」を目指すためにどうしたら良いのかを考えるために,なぜ今,核がなくせないのかを冷静,且つ客観的に分析してみせたのが本書である.政治部,国際部記者としての取材経験を踏まえて,普通に暮らしていたのでは,知り得ない,あるいは,気がつかない,交際政治の舞台裏を明かしてくれて,大変参考になる.核兵器などない方が良いことはだれでもすぐにわかる.なのになぜなくせないのか.この問いに,核抑止力以上の説明をきちんと聞いたことはないように思う.その,核抑止力という概念も冷戦時代の遺物になりつつある.

なくならない理由については本書を読んでもらいましょう.

人間が核兵器を持ち続ければ,間違いなく,社会を破壊し尽くす危機をもたらす.我々は非核の世界に戻るべきなのだ.

ノーベル平和賞の受賞を聞いた時,オバマは緊急声明の中で受賞が核全廃という大義に「弾みをつける手段として用いられた」と表現した.その途方もない大義の重さと難しさを改めて悟ったであろうオバマはその際,「核なき世界」を目指すとした自らの原点に帰って,こんな言葉を残している.
「我々は核の恐怖の中で生きることはできない」

  • 日本はなにができるのか.下記は,ウイリアム・ペリー氏の指摘.

北朝鮮による核開発問題に国防長官,そして朝鮮半島政策に関する米大統領直属の調整官として深く関与したペリー氏にとって,日本という存在は世界における核拡散に歯止めをかけられる数少ない国の一つとして映っていた.にもかかわらず,日本では忘れたころに右派・保守派から核武装論が跳梁跋扈し,一方でリベラル派からは戦略なき「核廃絶論」が唱えられるばかりで,現実的な対応姿勢を見せられないでいた.

この,「戦略なき「核廃絶論」,という指摘は,日本の外交政策に対する若泉敬の批判ともつながるものがあるだろう.

【関連ブログ】


【読んだきっかけ】書店にて.
今は廃業してしまった,社会思想社という出版社から,そのむかし,現代教養文庫という文庫が出ていた.もう30年から35年ほど前だろう.その中に,現代の博物誌というシリーズがあって,月から,火,水,と続いて,日まで7冊のシリーズであったと記憶しているが,現代科学に関する話題をわかりやすくまとめた良書であった.そのうちの「火」のタイトルが『プル−トーンの火』,著者が故高木仁三郎であった.高木氏は,後に脱原子力運動のの中心メンバとして活動する.今でも記憶にあるのだが,この文庫本の中で,プルトニウムの危険性(毒性),半減期が三万年であることを冷静に述べ,このプル−トーンの火を我々がどう扱うのかに人類の将来がかかっている,というメッセージを伝えていた.

【一緒に手に取る本】
核の問題については,あまた本があるが,敢えて下記を.

マクナマラ回顧録 ベトナムの悲劇と教訓

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ジョン・ウェインはなぜ死んだか (文春文庫)

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