“人生は,ただ感じるだけの人々にとっては悲劇にほかなりませんが,もしあなたが考えることができれば,それは巨大な喜劇になります” 『ホームズ-ラスキ往復書簡集 (岩波現代選書 67) 』 O.W.ホームズ, H.J.ラスキ, M.D.ハウ編 鵜飼信成訳 岩波書店

ホームズ―ラスキ往復書簡集 (岩波現代選書 67)

ホームズ―ラスキ往復書簡集 (岩波現代選書 67)

1981刊の本である.見開きの紹介文.

二人の傑出した知識人が1930年代の激動の時代にあって,静かに本を読み,その感想を書き送り,また,周辺にあらわれるさまざまな人物と出来事を分析し,それらを鋭さをひめたユーモアで表現してゆく.ラスキ23歳,ホームズ75歳のときから始まって20年間に及ぶ数多い書簡の中から,最も興味深いものを選び編成した書簡集は,読む者の心をとらえ,知的理解を触発しつつ,その基礎を流れる時代の知性史を明瞭に提示する.

オリバー・W・ホームズ(1841-1935)は,ハーバード大教授を経て,30年間にわたり合衆国最高裁判所裁判官を務めた人.ハロルド・J・ラスキ(1893-1950)は,ハーバード大講師を経て,ロンドン大教授.イギリス労働党の指導者.訳者の鵜飼信成氏(1906-1987)も東大等で教鞭をとった法学者である.

激動の1930年代最高の知性が,50という歳の差を超えて,交歓を交わした記録である.50年の時を経て日本語になって1981年に出版.現在は絶版.私が読んだのは29年前で,書棚の整理を機にふたたび手に取った.懐かしい1冊.

スペイン旅行から帰国したラスキからホームズ宛書簡の一文.今でも良く覚えている.
「スペイン人は,どんな暇つぶしより,カフェで人生を論ずることが好き」であり,だから,「自分の経験を一般化して警句に仕立てることができる」といい,トレドのウェイターがいった次の言葉が印象だった記す.

「人生は,ただ感じるだけの人々にとっては悲劇にほかなりませんが,もしあなたが考えることができれば,それは巨大な喜劇になります」

そして「残念ながらスペインには考える人が少ないのです」とつづく.

改めて見返してみると,ラスキがホームズに,エルンスト・トラー(Ernst Toller, 1893–1939)の自叙伝『私はドイツ人だった』を薦めているのに気がついた.トラーと言えば,「夢見る力のないものに生きる力はない」(Wer keine Kraft zum Traum hat, hat keine Kraft zum Leben.)という箴言が有名.学生時代から座右の言葉である.

【読んだきっかけ】昔のことでもあり不明.おそらく新聞書評か.

【一緒に手に取る本】
これを機にこんな本が出ていることを知りました.