昔々あの星に 悧巧な猿が住んでゐた『ノンセンスの磁場―近代詩アンソロジー』  (1980年) 新倉俊一編著 れんが書房新社

ノンセンスの磁場―近代詩アンソロジー (1980年)

ノンセンスの磁場―近代詩アンソロジー (1980年)

30年も前の本である.いまだに,大切な本の一つとして所蔵しているのは,第二部のわがライト・バース選に魅力的な詩があるというのがその理由の一つ.ここで見つけた三木卓の「客人きたりぬ」は,若い人がはじめての子供をもった時に贈ることにしている詩である.この三好達治の「灰が降る」も忘れがたい詩の一つ.

「お月様が 囁いた 昔々あの星に 悧巧な猿が住んでゐた」というフレーズは,大きなニュースを聞くたびに頭に浮かぶ.震災後の原発騒動の中で読み返した次第.

灰が降る 三好達治

灰が降る灰が降る
成層圏から灰が降る

灰が降る灰が降る
世界一列灰が降る

北極熊もペンギンも
椰子も菫も鶯も

知らぬが仏でゐるうちに
世界一列店だてだ

一つの胡桃をわけあって
彼らが何をするだろう

死の総計の灰をまく
とんだ花咲爺さんだ

螢いつぴき飛ぶでなく
いつそさつぱりするだろか

学校というふ学校が
それから休みになるだろう

銀行の窓こじあける
ギャングもゐなくなるだろう

それから六千五百年
地球はぐつすり寝るだろう

それから六万五千年
それでも地球は寝てるだろう

小さな胡桃をとりあつて
彼らが何をしただろう

お月様が
囁いた

昔々あの星に
悧巧な猿がすんでゐた

【関連ブログ】『核がなくならない7つの理由  (新潮新書)』  春原剛 新潮社
【読んだきっかけ】30年前のことで覚えていない.当時は,奥付に著者の現住所が印刷されているのですね.平和な時代でした.新倉俊一氏は,西脇順三郎の評伝や研究書を書かれていることを,後年しりました.
【一緒に手に取る本】

詩を読む人のために (岩波文庫)

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三好達治詩集 (岩波文庫 緑 82-1)

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評伝 西脇順三郎

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