“自然の中での一番のルールは人間の痕跡を残さないこと” 『きのこのほん』 鈴木安一郎(すずきやすいちろう) ピエブックス

きのこのほん

きのこのほん

美しい本である.
富士山の東西南北にあるきのこの写真集.

なにより,図鑑でないところがいい.
著者(撮影)は,鈴木安一郎さんという方で,東京芸大出身のアーティスト,そして,小学生の頃からきのこに親しんでいて,そして,富士山麓に住んで日々きのこに接している,だから,こういうよい本になった.

この本の品の良さは,「キノコ」でなく「きのこ」であるところ,写真の横に名前を書かないところ(後ろの方に,まとめて,ちょっとしたコメントとともに記されている),毒の有無に言及しないところ,などに表れている.

本の真ん中あたりに,国立科学博物館の保坂健太郎さんという方による「きのこの不思議」という解説が4ページ,おわりの方に「きのこ探しは宝探し」と題するお二人による対話が4ページ,ついている.ほんのりと勉強になります.

P.106

(胞子を形成するための特別の組織である)子実体が肉眼で見えるほど大きいものをキノコ、顕微鏡でないと確認できないほど小さいものを、カビと呼んでいるに過ぎないのです。

知りませんでした!!!

(キノコが)地球上にいつ誕生したのかはよくわかっていません。これまで発見された一番古い化石は約1億年前の白亜紀から。琥珀の中に閉じ込められたキノコが、とてもきれいな状態で保存されているのです。

さらに,

  • キノコにも性があるが性は2つではない.ある種では1000以上(!)の性がある.
  • アルプスで見つかったミイラ,アイスマンもキノコを利用していた.繊維をほぐして火口(ほくち)としても使っていた!.
  • 同じキノコでも,地域によって毒があったり,なかったりする.あのベニテングタケでさえ,長野県のある地域では食用にするらしい.(人間(住人)のほうが変異株(進化形?)ということはないですね)

対談から
P.188-191

鈴木 キノコ全体で見ても、美味しく食べられるキノコはそんなに多くないですね。
保坂 本当に美味しいのは10種類くらい。多めに見ても50しゅるいくらいじゃないでしょうか。

保坂 今栽培されているキノコには理由があって、おいしくて、栽培しやすいというのと、安全だからだと思います。野生のえぐみって身体によくないんですよ。例えば山菜とか。

保坂 キノコに形についてはいろいろ説明できるんですけど、色は何の意味があるのかうまく説明できないんですよね。

  • 菌類学者を喜ばせるためっていう説があるらしい.
  • 雲南省には,極彩色はじめ色とりどりのキノコが山売りされているのだそうだ.
  • 富士山でよく見かけるギンリョウソウは,キノコに寄生しているですよね.

えっ!!! キノコに寄生する植物? Wikipedia によれば,ギンリョウソウ(銀竜草、学名:Monotropastrum humile,別名ユウレイタケ)はちゃんとした多年草植物らしい.光合成はしない,つまり葉っぱがない.ベニタケ属のキノコが共生する樹木の光合成を利用しているのだそうである.こうした植物を,腐性植物というのだそうである.

保坂 キノコっていうのは目に見えるから、地元の人がどんどん名前をつけてしまうことがあって、悪いことではないんですけど、独特の呼ばれ方をしているキノコがたくさんあるんです。
(中略)
おそらく菌類全部合わせたら150万種以上あって、今のところ知られているのが10万種に満たない。

最後に,「はじめに」より著者の一文.

最後に、ゴミ問題や排泄物の問題など富士山の環境汚染は深刻である。...自然の中での一番のルールは人間の痕跡を残さないこと。...自然の中で文化度が上がり、いつまでも富士山が美しい山であることを願って。

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【読んだきっかけ】本屋で衝動買い.
【一緒に手に取る本】

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INAXギャラリーで2008-9年に,「考えるキノコ−摩訶不思議ワールド− 展」(こちらを参照)という展覧会を開催したらしい.現在注文中の本.
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このシリーズは何冊か持っているのだが,キノコは持っていない.絶版なのね.
キノコ・カビの研究史―人が菌類を知るまで

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一緒に衝動買いした本.いまから読むのが楽しみ.

美しいキノコの世界を眺めていると,動物でいうところの,ウミウシの世界に似ているかも,と思いました.ウミウシ(Sea Rabbit)は私が二番目に愛する生物種.どの本がいいのか分からないが,とりあえず一冊.

ウミウシ―生きている海の妖精 (ネイチャーウォッチングガイドブック)

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