“科学(者)への信頼は,何が確実に言えて,何が言えないか,それを科学者自身が明確に述べるところに成り立つといえる。科学とは,まずなによりも《限界》の知であるはずである” 『見えないもの,そして見えているのにだれも見ていないもの』 鷲田清一 科学 2011年 07月号 岩波書店
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【『津波と原発』 佐野眞一 講談社】の読書日誌において,「科学」の価値が問われている,ということを書いたが,それももっと具体的によりわかりやすく書いてあり,強い説得力を持つ.
科学(者)への信頼は,何が確実に言えて,何が言えないか,それを科学者自身が明確に述べるところに成り立つといえる。科学とは,まずなによりも《限界》の知であるはずである。そして,世界をまるごと語る「物語」や「説話」とはそこで区別される。
ところがである.何が見えないか.
が,原子力工学の研究者コミュニティは,科学者として最低限の統一見解を出せていない。意見が割れているとして,では市民にセカンド・オピニオン,サード・オピニオンにふれる機会を設けているかといえば,それもない。コミュニティとして合意できる事項がないのだとしたら,それは当該ディシプリンが成り立っていないということになるのだが。
「当該ディシプリンが成り立っていない」,これほど辛辣な批評はないであろう.
そして
その《限界》の知は,科学外の利害関係やさまざまの希望的観測によって歪められててはならない。時代に距離を置くこと,それを科学者は市民に負託されている。がそれは専門性に閉じこもることを意味しない。
と言い,なぜなら,専門外の領域については,科学的な物言いをなしえない「特殊な素人」であるから,と言う.
そして,最後に,「見えているのに見てこなかった人たち」が,それ(みえていない原子力工学者)よりたくさんいることにも触れている.その人たちとは,わたしたち原子力工学についての「素人」だというのだ.なぜなら,例えば,高木仁三郎らによる原発推進への不屈の警告があったではないか.チェルノブイリや東海村の臨界事故の時,専門家の意見にもう少し持続的に耳を傾けていれば,というのである.
見えている人による冷静な分析である.やはり,「試されているのは,管首相なのではなく,わたしたち自身なのだ」との思いを強くする.
【関連読書日誌】
“今回の大災害は、これまで通用してきたほとんどの言説を無力化させた。それだけではない。そうした言葉を弄して世の中を煽ったり誑かしたりしてきた連中の本性を暴露させた。” 『津波と原発』 佐野眞一 講談社
『核がなくならない7つの理由 (新潮新書)』 春原剛 新潮社
【読んだきっかけ】
書架にて.
【一緒に手に取る本】
これも偶然なのだが,或る大学の過去の入試問題に,この間読んだ「夜と霧」の旧版(霜山徳爾訳)が引かれている文章があり,それが鷲田清一氏のものであった.稀代の名文家だと思う.鷲田氏の著作を読んだことがないのだが,その著作リストをながめていると,霜山徳爾の著作とつながるところがあるように思う.確かに,鷲田氏の著作がきっかけとなって,霜山氏の『人間の限界』を手にした人もすくなくないらしい.

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