“思いがけない言葉のシャワーを浴びて、自分の考えも設計図も変わらざるを得ない。その醍醐味が読者に感染し、読み終えた後に、読者の感性が1ミリくらい変わるんだと思う。” 朝日新聞2011年10月27日 朝刊 P.25 秋の読書特集
朝日新聞2011年10月27日 朝刊 P.25 秋の読書特集は、ノンフィクションである。これは見逃せない。
ノンフィクションの名著を紹介した本としては、何よりも、『現代を読む―100冊のノンフィクション (岩波新書)』(佐高信、岩波新書)が懐かしく、最近では、月刊現代の廃刊を機に出た、『現代プレミア ノンフィクションと教養(講談社MOOK)』がある。
まずは、『津波と原発』を出した佐野眞一へのインタビュー(西秀司記者)
ノンフィクションの特徴を「圧倒的な現実に向き合うと言葉を失う。沈黙にたたき落とされる。でも、そこからもう一度、自分だけの言葉を紡ぎ出す。紋切り型で類型的な大メディアとの違いです」と言う。
「小説は自分で企んで設計図通り運んでいく。ノンフィクションも設計図はあるが、それは現場で必ず裏切られる。思いがけない言葉のシャワーを浴びて、自分の考えも設計図も変わらざるを得ない。その醍醐味が読者に感染し、読み終えた後に、読者の感性が1ミリくらい変わるんだと思う。読んだ後に景色がちょっと違って見える。それがノンフィクションの力だと思っています」
震災を機に上梓(新刊、再刊)された書物たち
- 『津波と原発』(講談社)
- 海堂尊監修『救命』(新潮社)
- 石巻赤十字病院・由井りょう子『石巻赤十字病院の100日間』(小学館)
- 麻生幾『前へ! 東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録』(新潮社)
- 萩尾信也『三陸物語 被災地で生きる人びとの記録』(毎日新聞社)
- 粟野仁雄『ルポ原発難民』(潮出版社)「「放射能が理由で救助が来ず、無念で落命していった人がいるはずだ。その意味でも、福島第一原発は明らかに人を殺したのである」という文章が重い。」
- 堀江邦夫『原発ジプシー』(現代書館)
- 川上武志『原発放浪記』(宝島社)
- 『福島第一原発潜入記 高濃度汚染現場と作業員の真実』(双葉社)
- 広瀬隆『原子炉時限爆弾 大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)
次に、ノンフィクション専門雑誌「G2」から生まれた本。この雑誌は、廃刊になった月刊現代の後継。
スポーツを扱ったノンフィクション、後藤正治氏推薦
- 沢木耕太郎『一瞬の夏』(新潮文庫)
- 山際淳司『スローカーブを、もう一球』(角川文庫)これは有名な一文
- 立石泰則『魔術師』(小学館文庫)
- 城島充『ピンポンさん』(講談社)
- デヴィッド・ハルバースタム『鳥には巣、蜘蛛(くも)には網、人には友情。』(不空社) 「ハルバースタムはスポーツノンフィクションの優れた書き手でもあった。」これは知りませんでした。
テレビ番組制作をきっかけに書かれたノンフィクションの秀作。堀川惠子氏の著作も入っていいと思う
- 国分拓『ヤノマミ』(NHK出版)
- 「NHKスペシャル」取材班『アフリカ 資本主義最後のフロンティア』(新潮新書円)
- 札幌テレビ放送取材班『がん患者、お金との闘い』(岩波書店)
- 曽根英二『生涯被告「おっちゃん」の裁判』(平凡社)
ジャーナリスト武田徹氏
かつて「アカデミズムとジャーナリズムの間」は、淡水と海水が混じる汽水域が豊穣な生命を育むごとく、多くのノンフィクションを産み出す場であった。
- 中尾佐助『秘境ブータン』(岩波現代文庫) 中尾佐助ですかなるほど。
- レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』(中公クラシックス)これもノンフィクションですか。なるほど。「世界ノンフィクション全集」(筑摩書房)に収められているそうです。
- 佐藤郁哉『暴走族のエスノグラフィー』(新曜社)
- イライジャ・アンダーソン『ストリート・ワイズ』(ハーベスト社)
- 佐藤俊樹『不平等社会日本』(中公新書)
- 開沼博『「フクシマ」論』(青土社) 今年評判の書
- 古市憲寿『希望難民ご一行様』(光文社新書)『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)
アカデミアからノンフィクションを出している中島岳志氏へのインタビュー
もう一つ意識したのは、普通の人が読めるものでありたいということ。ある一定の読者にとってしかなじみのない言語体系ではなく、ノンフィクションの形にすれば、世代が違う人にも手にとってもらえるのではないかと思ったのです。
しかし、わかりやすさというのは単純化とは違います。僕にとってのわかりやすさとは、複雑な世の中や、非合理に出来ている人間という存在を丹念に追うこと。
最後に、鈴木繁編集委員。ノンフィクションの基点は「自分語り」にあるという。