“真正直な人間を騙すのは不可能だ。詐欺師の詐欺を可能にしているのは、気の毒な被害者がもつ強欲と、留まることのない想像力と、また窮地から脱しようと夢見る希望なのだ” 『偽りの来歴 ─ 20世紀最大の絵画詐欺事件』 レニーソールズベリー, アリースジョ, 中山ゆかり訳 白水社
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- ランナー:買い手と売り手を結びつける店舗をもたない美術品ディーラー
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修道院や僧房がしばしば高価な古書や手稿(マニュスクリプト)、あるいは宗教美術の作品を蔵匿していることは、愛書家たちにとってはとりたてて新しい情報ではない。稀覯書を熱愛する人々は、すばらしい裏話を何十と知っている。特に有名なものの一つは、半ば神話化された写本『リンディスファーンの福音書』に関するものだ。テキストと挿絵からなり、「装飾写本」とも呼ばれるこの福音書は、八世紀に、はるか遠くの北イングランドの地ノーサンブリアの島で、ある修道士によって書かれたとされる。宝石を飾った革の表紙で包まれていたその本は、何世紀にもわたって修道院から別の修道院へと移され、ついに大英博物館に収まった。本のディーラーたちは、そのような古代の宝石のような書物を薄暗い教会の図書室で発見することを夢見、いつも『ブリチーズ聖書』や『ヴィネガー聖書』のような特異な本を探して目を光らせている。
BBC放送「アンティーク・ロードショー」は,お宝鑑定団の英国版といったところ.なんどか見たことがある.雑音を排した,品のよい英国らしい番組.
P.151
一般に、サザビーズは紳士の皮をかぶった商売人でいっぱいで、かたやクリスティーズは、商売人になとうと必死になっている紳士たちの砦だと言われている。
P.195
プロの詐欺師はしばしばこう言う―真正直な人間を騙すのは不可能だ。詐欺師の詐欺を可能にしているのは、気の毒な被害者がもつ強欲と、留まることのない想像力と、また窮地から脱しようと夢見る希望なのだ、と。詐欺師の病理をつまびらかにしようと試みてきた社会科学者たちは、詐欺師は、反社会的な精神疾患者である「社会病室者」と「自己愛者」とが合体していると説明する。詐欺師は概して衝動的で道徳意識に欠け,自身を抑制できず、高度に知的ではあるが、孤立しており、厭世的で仰々しく、また自分を唯一無二の存在であり、人よりも優秀だと感じている。彼らはまた、自分は周囲の環境や冷酷な社会の犠牲者だと主張する。彼らは警察に、自分は環境によって疲弊させられたのであり,自分の苦しみは社会不全の結果であり,運命の気まぐれによるものだと言う。だが、刑務所への道をたどりながらゲームが終わったことを知った詐欺師は、すべての仮面を脱ぎ棄て、被害者たちは騙されて当然なのであり、強欲は二人で踊るダンスのようなものであって、相手のいない詐欺などは存在しないとうそぶくのである。
P.258
古代のバビロニアの僧侶たちは、自らの特権と利得を確保し続けるために、彼らの寺院が実際よりも古く見えるように楔形文字の碑文を偽造したと言われている。「これは嘘ではない」と、その偽造僧侶の一人は石板に書いた。
P.264『贋作者ハンドブック』(へボーン)を引用して
「どんな絵も、それ自体が嘘をつくわけではない。人を騙し得るのは、専門家の意見だけだ」と。
P.267キーティングの自叙伝『贋作者』を引いて
「単純に考えればその答えは、贋作とわかってもそれを破棄するには勇気がいる、ということだ。とりわけその人物が絵の売買を生業にしているならばなおさらだ」
P.270
毎年オークション会社で売買される作品は多数にのぼる―総額で五〇億ドルと見積もられている―が、ドゥリューは、扱う作品が比較的低価格層のものであれば、専門家たちがその何万点もある作品の一つ一つを綿密に調べることはあり得ないときっちり推しはかった。
P.324
病的虚言癖の患者はときとして、自分が想像してつくり上げた自分像によって「折りたたまれ」、感情的に「包み込まれている」と説明されている。そのために彼らは、紙を折って鳥や動物をつくる日本の「折り紙」からとった言葉「オリガミスト」とも呼ばれる。オリガミストは、子ども時代のなんらかの喪失感えお反映していると、心理学者たちは言う。両親に顧みられずに―報いられることも愛されることもなく―育つと、自分に与えられなかった注意や賞賛を探し求め,自分以外の何者かに「なる」」ことができるのである。
折り紙が不当に貶められている気もしないこともないが,何となくわかる喩え.
P.325
病的虚言癖は遺伝し、ある世代から世代へ受け継がれれ得るという点には、いくつかの根拠がある。
この物語で,贋作製作にあたった,John Myatt は,服役後,「本物の贋作」を描く画家として成功している.その歴史と作品は,ホームページで知ることができる。
P.334
彼の物語はまたモラルの問題も含んでいた。それは美術界の目を醒まさせ、作品にどんな金銭的価値があるのかではなく、美術とは実際のところ何であるのかを考えて作品を見るよう訴える警鐘だった。
限りなく真作に似せた模造品の持つ価値とは何か.ロボットにおける「不気味の谷」みたいなものが,ここにもあるかもしれない.
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