“それは「クロード・レヴィ・ストロース」という名の、おおきな知性の森を歩くようなもので、そこではルネサンス絵画の秘密も神経科学の知見も、小路に咲く花のひとつのように、そっと差し出されてくるのであった” 『レヴィ=ストロースの庭』 港千尋 NTT出版

- 作者: 港千尋
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2008/11/17
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ブルゴーニュの森のレヴィ=ストロース邸から、
神話世界にゆかりのある大地をめぐる
100歳を迎える知性とともに
それは太陽が高くのぼり、はるか遠く地平線まで輝かせる夏の日のこと。
……ほんとうにここなのだろうかと思いながら、
わたしたちが入っていったのは高い木が鬱蒼と茂った小道である。
しばらくして周囲が明るくなると、石造りの立派な屋敷が現れた。
そこがクロード・レヴィ=ストロース教授の別荘だった。
著者の写真家港千尋氏が,中沢新一氏らとともに,レヴィ=ストロースへのインタビューを行った.愛知万博の準備雑誌『くくのち』創刊号に掲載するためである.写真と港氏の小文,「庭の神話」「写真と音階」「蜜蜂の贈り物」からなる.端正な造りの薄い本であるが,20世紀を代表する知性,レヴィ=ストロースの世界を想像させる佳品.2008年11月刊.2009年10月100歳で亡くなった.レヴィ=ストロースは,学生時代に山口昌男の著作を通じて構造主義という単語とともに知ったが,あまりに巨人過ぎて,ちゃんと読んだことがない.もっと早くに手に取っておくべきであった.
二日間にわたるインタヴューは創刊される雑誌のためのものだったが、録音したテープを起こしてみると、すべての発言がほぼそのまま印刷原稿になるほど完全であることに、あらためて感嘆した。それは「クロード・レヴィ・ストロース」という名の、おおきな知性の森を歩くようなもので、そこではルネサンス絵画の秘密も神経科学の知見も、小路に咲く花のひとつのように、そっと差し出されてくるのであった。
『生のものと火を通したもの (神話論理 1)』から引用して,
「アマゾン川は両岸を原生林の壁に囲まれ、しかもその森にはまったく人の手が入っていないと一般に考えられています。けれども二〇年ほど前にわかったのですが、ヨーロッパ人による「発見」以前のアマゾン両岸には、その反対に多くの人々が住んでいて、集中的に農耕を行っていました。われわれが原生林だと思っていた森は、実は、先住民が滅ぼされたり土地を追われたりしたあとに、自然に育ったものだったのです。だからこの場合も純粋な自然ではありません。実質的な部分は人間がつくったものなのです。」
レヴィ・ストロース教授は、自ら最後の著作になるだろうと語った一九九三年の著作で、色彩と音についての面白い考えを披露している。フランス語で色と音と言うと、アルチュール・ランボーのあまりに有名な『母音』が想起されるが、誌のなかに共感覚の豊かな成果を認めながらも、ひとつの母音にひとつの色が対応する経験を証明するものではないとする。むしろ母音同士の関係と色彩内部での関係を見るべきだと言うのである。
(フランスでも大成功している)ハロウィーンはクリスマスとは対称・統治の関係にある祝祭である,という発言を受けて,
この屋敷の玄関にも、かぼちゃをかぶった子どもたちが来るのだろうか。ともあれ、こうしてみると「構造主義」とは、その少々機械的な響きとは裏腹に、直感と詩的なユーモアが含まれた、精神のレンズだという気がしてくる。
あとがきより
(『くくのち』の創刊号は)インタビューに加え,レヴィ=ストロース撮影の写真,数々の論考,ブックガイドなどが含まれた特集号となったが、販売目的で制作されたものではなかったため、一般に知られることなく、早々に忘れ去られた。愛知万博自体が当初の計画とはまったく違ったものになり、雑誌自体が継続できなかったことも、大きな理由だろう。
愛知万博に計画変更,というのが大変気になります.
このインタビューについては,同行した,小崎哲哉氏による記録がある.
【関連ブログ】
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“悲しみの谷では、翼を広げよう” 『死の海を泳いで―スーザン・ソンタグ最期の日々』 デイヴィッドリーフ, David Rieff, 上岡伸雄訳 岩波書店
【読んだきっかけ】
本屋で衝動買い
【一緒に手に取る本】

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