“世の中には、こういうこともあるのである” 『野口英世』 in 『明治の人物誌 (新潮文庫)』 星新一 新潮社
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野口英世は,放蕩癖があった.だからいつもお金がなかった.洋行費用も,帰国費用も,入院費用も全部借りたお金で賄った.その借りたお金さえ,飲むのに使ってしまった.でも,彼には,いつも彼のために,用立ててくれる人が,助けてくれる人がいた.その最大のパトロンが,著者,星新一の父親,星一である.だが,古くから読まれていて,いろいろな伝記の底本となっている野口の伝記では,星新一のことは触れられていない.それには星側に事情があった.で,この小文の最後の一文は,
世の中には、こういうこともあるのである。
日本人の美風 (新潮新書)(新潮新書,出久根達郎著)の中で,野口英世を支えた人たちの話がでてくる.出久根が,この星新一による評伝が,野口の伝記の中では一番良い,評している.なぜ,星一のパトロネーゼは知られることがなかったのか.出久根氏は,それは明かさず,単に本書を引いているだけ.ここでもそれに倣うことにします.
星一は星製薬の創業者.出資者を裏切っては放蕩を繰り返す星には,それでも,いつでも支えてくれる人たちがいた.なぜか.寝食を惜しんで研究に邁進する姿,小さい頃からの猛勉強,それも独学で身につけた学問,そうした経歴を踏まえた信頼感があったに違いない.
星と野口には共通点が多かった。まず、身体的な欠陥。星は幼時に右の眼を負傷し、ちょっと見ただけではわからないが、失明していて、それを他人に気づかれぬよう注意していた。また、いずれも農家のむすこである。母が身なりもかまわず、よく働くこと。父が酒好きであること。もっとも、星の父は酔ってない時にはまともで、村の世話役として活躍していた。
そして、現在、おたがいにぼろ服をまとって、アメリカで仕事をしている。
一方、ちがう点もある。星は上京してから東京商業という中等の学校に三年かよい、サンフランシスコに渡ってからは、住み込みで働きながら英語とアメリカ式生活を身につけ、ニューヨークに移って大学に入った。いろいろ苦労はあったにしろ、なっとくできる経過である。
これに対し、野口は小学校を出たほかは、ほとんど独学。済生学舎に数ヶ月かよっただけ。中間の段階をすっとばして、ここの大学の研究所で働いているのである。その飛躍と適応性.くらべてみて、はじめて野口のすごさに驚かされる。
追憶座談会での星一の発言.
あの人が非常に恵まれていたと思うのは、お母さんですね。お母さんが命だった。
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