“思っている限り、人は生き続ける。 忘れること、忘れられることを恐れながら、それでも生きていこう” 『コンニャク屋漂流記』 星野博美 文藝春秋

- 作者: 星野博美
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/07/20
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2012.1.5追記
地方都市へ出張に行くと,なんでこんな田舎の小さな町に,お寺ばかりたくさんあるのだろう,と感じることがある.日本なんだな,と納得していたが,本書を読んで,なるほどと思った.たくさんのお寺は,その町が,かつて栄えたことの名残なのだ.人口は減ってもお寺は,そう簡単にはなくならない.(追記終わり)
星野博美は,物語が上手い.出世作(?)『転がる香港に苔は生えない (文春文庫)』を読んだ時とまったく同じ感想を抱いた.祖父直筆の手記,人間的魅力あふれる親戚たち,紀州から外房へとつながる漁師の歴史,素材には事欠かないようには見えるが,全体を緊張感あふれる物語にまとめるのは,それなりの手腕が必要だろう.もう一つは,調査,取材,インタビューの成果をどうのように語るか.一族の間で「ほら吹き」を得意とする著者の面目躍如たるところ.ほらを上手に吹くには,それなりの話術が必要なはず.
「屋号」という言葉さえそのうち死語になりそうな気もするが,漁師を祖先にに持ち,なぜだか「コンニャク屋」という屋号を持つ星野家のルーツ探し,と言ってしまえば,そうなのだが,400年前に遡る日本の漁業史,戦前戦後の東京の近現代史など豊かな民衆史が横糸として織りなされている.
- 星野家の親戚は,今でも屋号でお互いを呼び合っている.やいっとん,さんざ,じんべ,かへえどん,ろくぜむ,またえむ,ごんべ,かぼちゃ,あんご,重箱,もんちん,くそだる,そして,コンニャク屋。
- 1609年スペイン領メキシコの船,サン・フランシスコ号が外房の御宿岩和田の浜で難破する.船長は,ドン・ロドリゴ。56名溺死。317名は岩和田の漁民に救われれる.冷えた体を.生肌で温めて救ったと言われる.2009年メキシコ海軍の訓練帆船が,400年を記念して彼の地を再訪する.ロドリゴはこの時,三浦按針とあい,家康に謁見している.
- 1919年スペイン風邪日本上陸.45万人が死んだと言われる.抗体を持たない若年層に犠牲者が多かった.
- 五反田を歩くと重慶を思い出すという.歴史の中に刻まれた社会主義の雰囲気.
- 中国の海岸線を見て思ったのは,中国の海は穏やか.それに比し,外房の海ははるかに荒々しい.
- 戦前,外房と縁のあった文化人たち.芥川龍之介,高村光太郎,森鴎外,林芙美子,講談社の野間清治,宮本百合子,猪俣浩三(社会党代議士,アムネスティ・インタナショナル日本支部の設立者)梅屋庄吉
- 日比谷公園の松本楼.梅屋庄吉と孫文の出会い.(P.186)
- 網野善彦氏「これまで『百姓は農民』という思い込みから農民戦争と考えられてきた一向一揆は,じつはこのような海民的な人々を含む都市民に強く支えられてきた」.ここでいう海民的な人々とは,商人,廻船人,漁撈民など.
- 紀州広川出身の人.濱口梧陵(ヤマサ醤油創業者).崎山次郎右衛門(銚子戸川に港を築いた人)
あとがきより,
記憶―それは不確かで移ろいやすく、手渡さなければ泡のように消えてしまう、はかないもの。
だからこそ、けっして手放したくない、何よりも大切なもの。
歴史の終わりとは、家が途絶えることでも墓がなくなることでも、財産がなくなることでもない。忘れること。
思っている限り、人は生き続ける。
忘れること、忘れられることを恐れながら、それでも生きていこう。
【関連読書日誌】
【読んだきっかけ】
書評などでずいぶんと取り上げられました.大昔に,『転がる香港に苔は生えない (文春文庫)』を読んで強い印象を持っていました.
【一緒に手に取る本】

絶品 手づくりこんにゃく―秘伝わら灰こんにゃく、糸こんにゃくから、精粉こんにゃくまで
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