“未来の世界の住民は、ネットワークに触れることで、運命によらず確率によって、動物的な生の安全の閉域から外に踏みだし、社会との接点を回復する” 『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』 東浩紀 講談社

- 作者: 東浩紀
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/11/22
- メディア: 単行本
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帯に
夢を語ろうと思う。
未来社会に
ついての夢だ。
P.23
筆者は本書で、その「世界中の情報を体系化」というさりげないひとことがいかに二世紀半前の「一般意志」の構想と響きあっているのか、時代を超えた呼応関係について語りたいと思う。
「世界中の情報を体系化」とは,グーグルの創業理念からの言葉.東は,本書でかかげたビジョンを日本おいて実現性のあるものだと考え,その大きな夢について,より詳しく,強く日本の読者に語りかけるつもりであったらしい.だが,震災がすべての前提を変えた.筆者のかかげたビジョンと夢はそのまま今でも生きているが,震災後の今,日本の読者は,今語るべきことは別にあるのではないかと感じるのではないか,今考えるべき事は別にあるのではないかと感じるのではないか,と筆者は考えた.そこで「本」への連載を終えた(それは震災前のこと)ままの原稿で,追記修正することなく,つまり,大きな夢は語ることなく,本章を上梓した.こうした感覚,発言者としての繊細な感覚を持ち合わせているところが,東浩紀の一つの特徴であろう.あまり好きな表現ではないが,TPOをわきまえているというか,空気を読めているというか,あるいは,発言者としてのマーケット感覚とでもいうところか.『思想地図』のような雑誌を成功させているのもうなずけるところ.
twitter,google日本語入力,ニコニコ動画などの,IT技術,ITサービスを具体例に援用しつつ,一般意志2.0の新しい可能性を述べる.ルソー,フロイトだけでなく,さまざま思想家の著述を引きつつ,論を進めるあたりがさすが.とはいえ,筆者がいうように,これは学術書ではないので,厳密な意味での文献リストはない.最低限の論拠を示しつつも,できるだけ多くの読者を得るための,ぎりぎりのところを狙っている.読まれなければ,書く意味はないのだから,戦略としては妥当でしょう.議論は,いろいろなところにふくらみ,さまざまな思考を刺激してくれる,知的な関心の尽きない本である.おたのしみ!
結論としては,
P.182
あらゆる熟議を人民の無意識に曝すべし。ひとことで言えばそれが本書が掲げる未来の政治への綱領である。
そして,
P.249
かつて人間は、まずは隣人に、すなわち地理的に近い場所に住む同胞に手を伸ばすところから、社会を作った。たとえばハイデッガーは、世界への「配慮」は、まずは大地と民族に運命的に結びつくものだと考えた。
しかし、未来の世界においては、ひととひとを繋ぐ「憐れみ」の情あるいは「配慮」は、もはや地理的な近傍性とは関係なく、ネットワークを介して世界中に拡散しばらまかれることになるのである。未来の世界の住民は、ネットワークに触れることで、運命によらず確率によって、動物的な生の安全の閉域から外に踏みだし、社会との接点を回復する。そこでは逆に、足もとの大地を管理している国家は、もはや効率的な資源配分だけを目的とした―シュミットの分類にしたがえば政治的な性格を失った―インフラサービスへと変わることだろう。
五〇年後、一〇〇年後の世界においては、ひとを動物的な生から人間的な生へと連れ出してくれるのは、国家ではなく市場になることだろう。
ここの,「運命によらず確率によって」というところに,特に注目したい.それが良いか悪いかは別にして,ITによって変わりつつある世界の本質を突いている表現である.ちなみに,「確率」ということばは,東によるソルジェニーツィン論,「確率の手触り」を想起させる.
余談ですが,最近読んだ,まったく文脈の異なる本3冊が,ハンナ・アーレントの著作「人間の条件」に行き着いている.たまたまとは言え,ちょっとびっくり.本書と,
『じぶん・この不思議な存在 (講談社現代新書)』(鷲田清一)の最後の方に出てくるプライバシー論,
『科学は誰のものか―社会の側から問い直す (生活人新書 328)』(平川秀幸)では,平川がこの分野に進むきっかけが,「人間の条件」であったことが語られている.
【関連読書日誌】
- 東:その「無駄話」によって、本来は開けるはずだったのに閉じてしまっているコミュニケーションの回路が、再活性化されて動き出すからです。”“宮台:最近、面白いことに気がつきました。ソーシャルスキルのある人間ほど単純労働 を嫌がらないことなんです。” 『父として考える (生活人新書) 』 東浩紀, 宮台真司 日本放送出版協会URL
【読んだきっかけ】
書評
【一緒に手に取る本】

- 作者: 東浩紀
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科学は誰のものか―社会の側から問い直す (生活人新書 328)
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