“『坊っちゃん』は、実のところ、女性をカヤの外に置いた、男たちの未熟な自己陶酔的正義感のオンパレードにすぎないのではないか” 『恩を仇で返す気はないけれど』 本と私の時間25 佐伯順子 図書 2012年 01月号 岩波書店

図書 2012年 01月号 [雑誌]

図書 2012年 01月号 [雑誌]

今月の『図書』の中から,比較文化佐伯順子による小文,『恩を仇で返す気はないけれど』.
 小さい頃,慣れ親しんだ世界の名作数々は,「言葉への感覚や想像力を研ぎ澄ませてくれた書物」として恩義があるが,そうした名作を大人になって批判する立場になってしまった,という.でも,“反面教師”という意味では,今の私の研究生活を支えてくれている,ところが面白い.
 昨年,何カ所かで読んだ,「ホモ・ソーシャル」という言葉が出てきたので,書き留めておきます.

すがすがしい青春文学であるかのように高く評価され、『世界の名作図書館』にも所収されている『坊っちゃん』は、実のところ、女性をカヤの外に置いた、男たちの未熟な自己陶酔的正義感のオンパレードにすぎないのではないか。主人公は、東京と男性の権威の中心とする立場から、地域(四国)と女性への差別意識を隠そうともしない。

女性に本心を見せず男どうしの対話に終始するホモ・ソーシャルな人間関係のあり方こそが、女と男のグループの勝負である歌合戦が、年の節目の国民的番組として受け継がれる日本社会の同性集団の絆の強さを体現しているのであり、だからこそ漱石文学も“名作”として継承され続けるのだと悟らざるをえないのである。

 男二人の面白おかしい珍道中として一般に流布している、弥次さん、喜多さんの物語も、原作は、男色関係にあった二人が行く先々で女性を性的に玩弄して歩く物語であり、女性を性的に商品化する行為を通じて男どうしの結束を固める日本男児の行動パターンは、近現代にも懲りずに継承されている。

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