“以前は人が獣類を圧倒していたのに、いまや人が獣類に負け始めている” 『女猟師』 田中康弘 エイ出版社

- 作者: 田中康弘
- 出版社/メーカー: エイ出版社
- 発売日: 2011/07/25
- メディア: 単行本
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ゲームへの熱狂ぶりをみればわかるように,人間の本性として,相手を仕留めることに対する,本能的快感といようなものがあるのかもしれない.猟師という仕事は,そのもっとも根源的なもの.土の匂い,血の匂いに触れてこそ,それを受容できてこそ,生き物の命を奪う(つまり食べる)権利があるにかもしれなしれない.
NHKのETV特集で,「見狼記〜神獣ニホンオオカミ」を興味深く観た.狼を祀る神社.ニホンオオカミを秩父の山で探し続ける人.犬と狼の交雑種と予測される犬から,狼らしい子孫を作ろうとした人(戻り狼).獣と人間との関係を探る原点が猟師の生き様にはある.
本書は,猟師として生きる5人の女性を追ったノンフィクション.帯より,
食べるのは
私だから
自分で獲り、
解体し、
感謝する。
本書での発見は,
- 猟師にも天賦の才能というものがある.男を凌駕する場合もある.それ故に妬まれる場合もある.
- 山の神と言える,超常現象的なものとの遭遇体験.命を賭けた仕事故のことだろうか.
新鮮な生肉は美味しいが,プロの猟師仲間のことば,
誰がどこでそのように処理したかが分からない肉は、絶対に生で食べないそうである。
マタギ流の焚き火
枝を長いまま並行に積んで火をつけるのはマタギ流。若干違うのは、マタギ流は真ん中にだけ火をつけて、そこが燃え尽きると両側を中に折り込んでいくのである。
P.69 松枯れの原因について,(これは知りませんでした)
当時(著者の学生時代)からカミキリムシぶ寄生するマツノザイセンチュウが原因であると、さかんい農薬の空中散布が繰り返されている。しかし枯れた松を調べると、必ずしも原因であるはずのマツノザイセンチュウが発見されていないことが分かってきた。つまり直接の原因は虫ではないのだ。どうやら酸性雨が土中のPH濃度を高めて、それが樹勢を弱める。これが原因ではないかと言われ始めている。北陸を中心に大被害をもたらしているナラ枯れも、酸性雨が原因だという。その対策として石灰を撒く地域もある。
狩猟用語
- 巻狩り:山の限られた範囲で行う集団猟
- 見切り:獲物の行動を見切ること.猟果はここで決まる.
- タツマ:射手.たって待っているからタツマ.
- 勢子(せこ):獲物を追い立てる役目.
- 狩猟組:巻狩りをするための定められたメンバー.老齢化が進んでいる.
終章より
このような現状を踏まえて、最近よく言われるのが“狩猟圧力の減少”という言葉だ。以前は人が獣類を圧倒していたのに、いまや人が獣類に負け始めている。事実狩猟者のいなくなった地域、または禁猟になった地域では、獣類が人をまったく恐れなくなっているのだ。三世代目であたりから劇的に性格が変わると言われており、発砲して脅かしても、まったく逃げない熊が現れているそうだ。
「三世代目あたりから」というところが気になる.人間が狼を恐れ,神に祀ったように,獣も同様に人間は恐れる(畏れる!)存在であったはず.それが崩れ始めている.
【関連読書日誌】
【読んだきっかけ】
『世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR (角川文庫)』を書いた内澤旬子氏が『飼い喰い――三匹の豚とわたし』という本を出したことを知って,仙台丸善を歩いたのであるが,昨日見かけた本がどこにあるのかみつけられず断念.初めての本屋は難しい.書名の記憶もあやふやだった.その替わりというわけではないが,本書を見つけた.書評でも見かけたような気がするが,不確かな記憶.
【一緒に手に取る本】

- 作者: 服部文祥
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- 作者: 田中康弘
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世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR (角川文庫)
- 作者: 内澤旬子
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/05/25
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- 作者: 内澤旬子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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