“死刑制度の正当化事由とは何か。私は遺族の報復感情しかないと思う” 『溺れる者に裁きを』 宮崎哲弥の時々砲弾

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クー族では,殺人犯罪の被害者は,犯人を川で溺死させるか,救うかを選択する権利を持つ.キッドマン扮する国連の同時通訳者(インタープリター)の台詞を紹介している.
「クー族の人々は信じている。もし罪人が溺死すれば正義は適えられる。その代わり遺族は終生喪に服することになる。もし人生の不条理を受け容れて、罪人の命を救ったならば、遺族は悲しみから解放されると」
そして次のように言う.
死刑制度の正当化事由とは何か。私は遺族の報復感情しかないと思う。こういうとすぐに「司法に感情を持ち込むべきでない」などと木で鼻を括ったような反論が返ってくるが、まったく古色蒼然たる見方だ。
法と感情を簡単に切り離すことはできないというのが、近代の「理性神話」を脱却した法哲学の見解である。例えば、その最も纏まった論考として、現代アメリカを代表する法哲学者、マーサ・ヌスバウムの『感情と法』(慶慮義塾大学出版会)を挙げることができる。
マーサ・ヌスバウムの『感情と法』は,1年前に本屋で衝動買いして,読めずに気になっていた1冊.ここで,出てくるとは思っていなかった.そして,宮崎氏は,仏教者でだある氏は,死刑廃止に賛成であることを明かした上で,最後に次のように締めくくる.
そこで思い出すのが冒頭紹介した「クー族の裁きの寓話」だ。この儀式のような、遺族による選びの機会を何とか司法に取り入れることはできないものか。
遺族の応報を求める心を承認し、それを当然の権利として各々に返還したとき、最後の最後に彼らはどう裁決するか。その帰趨を見届けたい。
【関連読書日誌】
宮崎氏は,シモーヌ・ヴェイユの影響を受けているらしい.
- (URL)“死者は永遠に去って、生者に語りかけには絶対戻って来ない、と思うのは、明らかに間違っている。死者は生者に語りかけに戻ってくる。それこそが彼らのすることだし、死者の主な仕事と言っても良い。” 『アンドレとシモーヌ―ヴェイユ家の物語』 シルヴィヴェイユ, Sylvie Weil,稲葉延子 春秋社
- (URL)“罪を犯すような事態に、自分だけは陥らないと考える人は多いかもしれません。しかし、入生の明暗を分けるその境界線は非常に脆いものです。” 『裁かれた命 死刑囚から届いた手紙』 堀川惠子 講談社
- (URL)“たった一人でもいい、真剣に、本気で、自分を愛してくれる人がいれば、その人は救われる。それが父や母であればよいけれど、それが叶わないこともあるだろう。” 『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』 堀川惠子 日本評論社
【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】

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