“人間の歴史を振り返れば、ファシズムを産み育てるのはいつだって大衆の無知と無関心だ” 『政府は必ず嘘をつく  アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること 角川SSC新書』 堤未果 角川マガジンズ

堤未果のレポートは貴重である.これがどこまで真実をついているかは,読者自身の判断が必要だろう.しかし,いわゆる新聞やテレビから流れてくる断片的な記事や映像から,ものごとの真実は見えてこないのは明らか.一方,インターネットを通じた検索などによって真実がわかるわけでもない.これは自らの能動的な活動であるだけに,確信してしまいがちだ.だが,そこにこそ大きな陥穽がある.
 最大のメッセージは,「「違和感」という直感を見逃すな」と「背後のお金の流れをみよ」であろう.
第一章 「政府や権力は嘘をつくものです」
P.20

「ただちに健康に影響はない」には気をつけろ9・11作業員の警告

P.38 英国から短期留学しているポール.

「正直一言って今回、僕は〈原子力村〉というものが世界各地にある事実に、とても驚きました。世界最大のウラン輸出量を誇るカナダもダメです。〈原子力村〉が強いフランスは、福島の後に自分の国で起きた原発事故を隠したし、そんな国ばかりです。僕はその中でもましな、ドイツやスイスあたりの機関から情報を拾っています。莫大な利権がからむ産業だとわかっていても、こういう時には本当に困りますね」

P.52

「なぜWHOは、チェルノブイリ原発事故による健康被害を調査しないのでしょう?」
「1959年にIAEAとの潤で、ある契約を交わしたからです(IAEA-WHO協定・第1条2項)。WHOが今後一切、IAEAの承諾なしに〈放射線に関わる健康被筈〉を扱えないという内容です。さらに、資金の出所が変わったことも、これに拍車をかけました」
 WHOの運営資金は加盟国政府からの拠出金でまかなわれることになっているが、ここ10年で民間企業ーからの助成金が急激に拡大し、今では国連予算の倍の資金を私企業から受け取っている。

第二章 「違和感」という直感を見逃すな
P.62

「アメリカでも2011年10月に下院に提出された『海賊版規制法案(Th Stop Online Piracy Act 通称:SOPA)』が問題になっています。もし可決されることになれば、アメリカ政府は検閲の際に、webサイトのドメイン単位で排除できるようになる。一度ブラックリストに載せられれば、アクセス全般が遮断され閉鎖に追い込まれてしまう。グーグルやフェイスブックなどの大企業は反対していますが、賛成派のアメリカ音楽家連盟やアメリカ映画協会、警備業界などが、監視体制を拡大したい政治家たちを中心に強力なロビー活動を行っています」
 SOPAの最大の問題は、「著作権」の定義が暖味な点だ。そしてこれは、私たちにとっても他人事ではない。日本が今、直面している〈TPP〉の中の知的財産権に絡んでくるからだ。

P.63

 ハワードの警告は、「ショック・ドクトリンL という言葉を思わせる。
 災害やテロ、クーデターや大規模伝染病など、人々が恐怖とショックで思考停止に陥っている聞に、企業寄りの過激な市場化政策を推し進めてしまう手法だ。
 カナダ人の調査ジャーナリスト、ナオミ・クラインは著書『ショック・ドクトリン』の中で、この手法が9・11直後の米国、イラクスリランカなど、世界中で使われてきた事実を指摘する。

P.105

1980年代後半、企業のためのアメリカ塑グローバル化戦略プログラムの第一人者であるハワード・パーミユッター博士は、政権の不安定化をもたらすための二大要素を打ち出した。パーミユツタl博士によると、それは民主化を掲げた政権転覆を目的とするNGOの存在と、そうした小さな動きを瞬時に国際規模の問題として拡散させる国際メディアの二つだという。
 10年後、アメリカの大手シンクタンクであるランド研究所が、情報革命の中でこの二大要素を適用するという研究結果を出した時のことを、ドイツ在住の経済学者であるウィリアム・イングドールはこう表現する。

P.108

元外務官僚で『日米同盟の正体』の著者である孫崎享氏は、〈アラブの春〉の背後にいたアメリカの存在についてこう語る。
「日本の報道を見ているだけでは決してわかりませんが、市民運動という形で他国の政権を転覆させる手法は、すでに米国の外交政策のひとつとして過去何度も使われています。今回は、それにSNS(ソーシャルネットワーキング・サービス)という新技術が加わったから目立ったに過ぎません」

P.118

私たちが日本国内で得る情報の大半は、西側の大手メディアやアルジヤジlvフなどの報道がベースになっている。だが、コーポラテイズムがメディア支配を強める21世紀、大手マスコミの報道を鵜呑みにすれば、大きなリスクが伴うだろう。
 だからこそ、ニュースは常に、現場の声や企業の息のかかっていない独立ジャーナリストの報告と比較することが重要になる。

P.136

「(略)私たちは何を見せられているのかわからない時代に生きていることを強く意識しなければなりません。つまり、映像そのものより送り手のほうをよく見るべきでしょう「
従順な人闘を作る教育ファシズム
「アメリカの〈失われた10年〉で最も打撃を受けたのは、何と言っても〈公教育〉です」
 2011年3月まで、サンフランシスコで高校教師をしていたポール・キャメロンは一言う。〈コーポラテイズム〉が支配を強めるアメリカでは、2001年と2002年に導入された〈愛国者法〉と〈落ちこぼれゼロ法〉という二つの政策が、異なる意見を押しつぶす空気を拡大させている。

P.140

大阪の橋下徹市長を「ファシストだ」と批判する声も少なくない。だが、本当にそうだろうか。人間の歴史を振り返れば、ファシズムを産み育てるのはいつだって大衆の無知と無関心だ。
 9.11をきっかけに、アメリカ政府は〈テロとの戦い〉という“錦の御旗”を手に入れた。国を無期限に〈緊急事態下〉においておけば、国家権力を拡大し、過激な政策を通しやすくなる。

P.147

2011年春に東大文学部に入学したというある学生は、〈情報ワテラシー〉への飢餓感を訴える。
「大学に行けば教えてもらえると思ったのに、授業で習うのはウィキベディアは信ぴょう性に欠けるとか、情報処理の技術的な内容ばかり。取捨選択の仕方を一番知らないのは大人だと思う」

P.150

前述した、ネット規制反対グループのキャサリン・チャンは警告する。
 2012年1月18日。オンライン百科事典のウイキベディア英語版が、「オンライン海賊行為禁止法(S0PA)」への反対を表明し、サービスをM時間停止した。SOPAは世界最大の利益を得ている米国の映画、音楽、新開業界らが推進する、ネット上の著作権侵害に対する強硬措置を可簡にする法案だ。
 ストライキを行ったウイキベデイアをはじめ、グ1グルやツイツターなども反対しているこの法案について、キヤサリンはきっぱりとこう言った。
「この法改正の動きは、日本のユーザーも注視しておく必要があるでしょう」
「なぜですか?」
「SOFAは知的財産保護法(PIPA)とセットで審議されていますが、これらの法案の真のターゲットは恐らく、もっと広範屈な海外全体でしょう」
「そのこつが通ればアメリカ政府は、海外で違反したサイトに対し国内法で処罰することができるようになりますね」
「それだけではありません。アメリカにとって最大の輸出品である〈知的財産権〉かち得る利益を拡大できる。日本もTPP交渉で必ず引っかかってくる問題です」

P.152

SOFAやPIPAを強力に推進する業界の顔ぶれを調べてみると、なるほど〈TPP〉の圧力団体と一致する。急先鋒は〈アメリカ商工会議所〉だ。
 日本でも2010年の尖閣諸島問題をきっかけに、外交、防衛、治安の幅広い分野で、安全保障に関わる情報を「特別秘密」とし、公務員等による漏えいに厳罰を科す「秘密保全法案」が持ち上がっている。民主党政府が2012年の通常国会に提出する予定の同法案が通過すれば、国民の知る権利や取材の自由は大きく規制されることになる。

第三章 真実の情報にたどりつく方法

「資本主義が犯した最大の罪は、人間性を破壊したことです」アルバート・アインシュタイン

P.162

腑に落ちないニュースは、資本のピラミッドを見る
「どうしても腑に落ちないニュースがあったら、カネの流れをチェックしろ」。
これは、私の大学院の恩師であるプドロー教授の言葉だ。

P.169

かつて私が国連婦人開発基金にいた頃、一緒に働いていたアルゼンチン出身のローラ・ガルシアが、私にこう一言った。
「西側の報道ばかり見ている人の多くは、IMFのことを、まるで弱い国を救う赤十字のような機関だと錯覚しているわ。IMF世界銀行、WTO(世界貿易機関)の目的は、地球規模の自由貿易推進で、ゲームのルールはアメリカ中心の西側に有利なようにできているのだ。あなたは『ジャマイカ楽園の真実』を観たことがある?」
私はその時初めて、IMF債務危機に陥ったラテンアメリカ諸国で“悪魔の機関”と呼ばれていることを知ったのだった。

『ジャマイカ楽園の真実』は、ニューヨーク在住の女性監督ステブアニー・ブラックによるドキュメンタリー.原題は,『Life and Debt(生と負債)』
P.172

規制緩和」「緊縮財政」「民営化」というIMFの処方箋のべースは、1980年代末にIMF世界銀行、アメリカ財務省の問で作られた暗黙の合意でもある〈ワシントン・コンセンサス〉だ。この手法は多くの国から批判され、最近ではIMF自体が路線変更し始めたという声も出てきている。

P.174

ヤコプが所属する「国境なき医師団」は、FTAEPA、〈TPP〉といった自由貿易協定において、-SD条項が医療にもたらす弊害に警鐘を鳴らしている。
「ISD条項によって、製薬会社は知的財産権を盾に、ジェネリック薬品の製造を許す政府を訴えることができる。この条項によって、公衆衛生という人類の基本的な生きる権利が、利益のために切り捨てられてしまう。ISD条項は、自由貿易の最も危険な要素のひとつなのだ」
「日本は医師会が、資本の参入によって国民皆保険制度が維持できなくなることに懸念を示しています。日本はカナダのように、政府が薬価や医療行為に上限をつけているので、アメリカのように国民がたつた一枚の医療費や薬の請求書で破産するケースは非常に少ないのです」
「実は一般の人にはあまり知られていないが、アメリカでは知的財産権が、医療分野ひとつとっても網の目のように複雑に入り込んでいる。医療行為は、さすがに園内では適用外になっているが、日本に対してはそうはいかないだろう。企業にとって法外な利益を生むυ金の卵なのだから」
ヤコプの一言う通りだった。すでに、アメリカから日本への要求項目の中で、医療行為は知的財産権の対象に含まれている。

P.182

2007年、クリステイナ・フェルナンデス大統領は一般教書演説でこう述べている。
「海外の債権者たちは、しきりに『負債を返済するためには、IMFと協定を結ばなければだめだ』と言ってくるが、アルゼンチンはこう答える。『わが国は主権国家だ。負債はお返ししたいが、金輪際、IMFと協定を結ぶつもりはない』と」

P.188

「はい。ですが、私は祖国ドイツの例を見て、ひとつ気づかされたことがあります。それは、この流れを受け入れるかどうかは、ターゲット地域の人々の意識次第、だということです」

P.196

 例えば、3・1後に被災地問題や放射能と並んで問題になった〈TPP〉。過去に目を向け世界の他の人々とつながれば、たちまち日米関係以外の視点が見えてくる。
 1998年末まで3年余り続いたOECD(経済協力開発機構)におけるMAI(多国間投資協定)案に関する交渉は、大変な議論を巻き起こした。多国間の金融や資本に関するこの協定を、「創世紀における世界経済の憲法L と絶賛したクリントン政権が結ぼうとしていた。市民やNGOが気づいた時には、四岨商交渉に関して議会承認なしで大統領が決定できる「フアストトラック」という手続き開始の直前だった。
 たちまち、全世界で1000以上のNGOが猛烈な反対運動を展開。結局、クリントン大統領はこの構惣の撤回に追い込まれた。
 1997年の終わりまで、これを阻止できると考えた者は誰ひとりとしていなかった。だが、もLMAIが成立していたら、世界を大きく変えていただろう。それほどまでに強烈な内容だからだ。多国籍企業に有利な条件で世界全体を独占させるという、企業側にとってはまさにパラダイスと呼ばれたMAIは、最後になって撤回された。

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