“多くの場合「強い相対主義」は単に思想的敗北のような気がします。区別のつかない領域があったとしても、はっきり区別できる両端はあるはずです” 「科学と科学ではないもの」 菊池誠 『もうダマされないための「科学」講義  (光文社新書) 』 SYNODOS編 光文社

もうダマされないための「科学」講義 (光文社新書)

もうダマされないための「科学」講義 (光文社新書)

科学コミュニケーションの入門書.オムニバス形式だが,バランスとまとまりの良い本である.

1章 科学と科学ではないもの 菊池誠
2章 科学の拡大と科学哲学の使い道 伊勢田哲治
3章 報道はどのように科学をゆがめるのか 松永和紀
4章 3.11以降の科学技術コミュニケーションの課題 −日本版「信頼の危機」とその応答 平川秀幸
付録 放射性物質をめぐるあやしい情報と不安に付け込む人たち 片瀬久美子

科学と科学の境界は何か,という重要な問いを投げかける第一章.あたりまえのようで,あたりまえでない.ひとりひとりが,ちゃんと,考えないといけない根源的な問いである.
目次から
P.7 はじめに シノドス マネージング・ディレクターの飯田泰之氏の文章

研究者は、それが先端的な研究者であればあるほどに、狭い業界内の興味・関心のみにとどまりがちです。そして、メディアも難解な学者先生のお話を敬遠しがちであるため、アカデミックな知識の普及は遅々として進みません。シノドスは研究者、評論家・ジャーナリスト、出版関係者が相互に顔の見える形で質問をぶつけ合い、時に議論をすることで、アカデミズムとメディア・ジャーナリズムのよりよい関係構築と情報交換を目指しています。
(略)
科学と非科学(またはニセ科学似非科学疑似科学など)を区別するための基準は「線引き問題(Demarcation Problem)」と呼ばれ、科学哲学のフィールドで長く議論され続けてきましたが、まだ決着はついていません。そこで、本書各章では、そこで提起される課の緩和に資するような線引き問題への暫定的な解答が語られるとともに、「線引き」という問題設定そのものが内包する問題点への言及が行われます。

P.17

意図しない仕方で「科学ではないもの」にふりまわされるのではなく、根拠に裏打ちされた「科学」を使いこなすカを身につけるためには、両者の区別について鋭敏たらなければならない。(荻上チキ)

P.28

グレーゾーンはニセ科学側も利用します。「はっきりした線を引けないのだから、否定もできないはずだ」「それは科学信仰にすぎない」という主張をするわけです。この問題をまじめに突き詰めると、何ひとつ肯定も否定もできない「強い相対主義」になるのでしょうが、多くの場合「強い相対主義」は単に思想的敗北のような気がします。区別のつかない領域があったとしても、はっきり区別できる両端はあるはずです。

P.31 創造論を科学と同等に教えるとする法律は違憲判決がでているが,

そこで、彼らの一部は「インテリジェントデザイン」という説に切り替えました。日本では知的計画説などと呼ばれています。

P.38 ゲーム脳

たとえばゲーム脳は、日本大学森昭雄先生が提唱された、テレビゲームをすると前頭前野が機能的に破壊されてうんぬん、という説です。論文もあるといえばある、ないといえないい程度の話です。

P.41 EM菌

また、EM菌は環境運動でよく使われていて、善意で参加しているボランティアの人たちがEM菌の因子を作って川に投げ込んだりしています。川がきれいになると信じるからです

P.44 マイナスイオン

有名なのは、マイナスイオンですね。これは家電業界を巻き込んだ大スキャンダルでした。もちろんマイナスイオンを名乗るあらゆるものがデタラメだといえるかというと、そんなことはない。それなりに科学的に意味のある話もある、というところがポイントです。

P.59

アーサー・C・クラークの第3法則というのがあります。「高度に発展した科学技術は、魔法と区別がつかない」というものです。さらにその逆法則で「科学が魔法に見えるなら、魔法と科学は区別がつかない」というのもあります

P.61

残念ながら、原発問題では工学者や自然科学者からの適切な発言があまり多くなく、少々社会を失望させているように感じています。もちろん、自然科学者が原子力放射能に詳しいとは限らないので、期待されても困るという面はあります。それでも人文系の研究者も含め、大学の研究者は少しでも発言をしたほうがいいのだろうと思います

【関連読書日誌】

  • (URL)「社会のための科学技術」という時、どういう意味で「社会のため」になるのかが問われると同時に、その「社会」とはいかなる社会のことを意味するのかが問われるのではないだろうか” 『みんなが選ぶ1冊』 「科学技術と社会の相互作用」 第2回シンポジウム配付資料 (4/4)
  • (URL)STSを理科教育の改革に利用しようとする試みは、日本では「理科教育」なるものが、概念としても、あるいは学校現場でも、およそ厳密に定まってしまっているために、なかなか実現できないが、理科教育のなかで造られた「理科嫌い」を救う一つの方法として、重要な意味を持つはずである” 『「科学技術と社会の相互作用」についてのおすすめ本』 「科学技術と社会の相互作用」 第4回シンポジウム(2011年5月29日)配付資料(6/6)
  • (URL)反省すべきは、「個の人々の痛みに寄り添うべきだった」などということではない。むしろ、科学がそのようなことは担えないということを再認識すべきであり、ヒューマニズムの衣装を纏うことこそ有害であることを知るべきだ” 『私たちはどのような未来を選ぶのか』 八代嘉美 in 『思想地図β vol.2』 東浩紀 他 コンテクチュアズ

【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】