“沖縄返還によって、日本全体の基地が、東アジアにおける安全保障上のおおきな役割を、アメリカから担わされたのである” 『沖縄返還の代償 核と基地 密使・若泉敬の苦悩』 「NHKスペシャル」取材班 光文社

沖縄返還の代償 核と基地 密使・若泉敬の苦悩

沖縄返還の代償 核と基地 密使・若泉敬の苦悩

NHKスペシャル,「密使 若泉敬 沖縄返還の代償」(2010年6月19日放映(URL)),「スクープドキュメント “核”を求めた日本〜被爆国の知られざる真実〜」(2010年10月3日放映NHKonline URL)に二本を作製した取材チームによる取材記である.本書は,前者「密使 若泉敬 沖縄返還の代償」に関するもの.この番組は,平成22年度文化庁芸術祭テレビ部門ドキュメンタリーの部大賞を受賞している.後書きにも書いてあるが,放映された6月19日は,サッカーワールドカップ南アフリカ大会の一次予選,対オランダ戦の最中であった.6月23日は,沖縄県が定めた慰霊の日である.
 西山事件も含めて沖縄密約には次の4つがあるので,混乱しがちである.
2009年政府(岡田外相)による密約調査は,次の4点.最初の2つが1960年日米安保改定時,次の2つが1972年沖縄返還にいたる交渉時の密約.

(1)日本への核持ち込みに関する密約
(2)朝鮮半島有事の際の米軍の戦闘作戦行動に関する密約
(3)有事の際の沖縄への核再持ち込みに関する密約
(4)米軍基地の撤去費用の肩代わりに関する密約

若泉が佐藤栄作首相の密使ととして働いた時の密約は(3).西山事件(「運命の人」として山崎豊子によって小説化)の密約は(4)に関するもの.
 若泉が晩年まで拭うことのできなかった悔恨とはなにか.沖縄への贖罪とは何か.
 首相の密使として,国家のためだと信じて,沖縄のためだと信じて,私利私欲に走ることなく,全身全霊をもって臨んだことは間違いがないだろう.キッシンジャーとのホットラインだと思っていたが,アメリカ外務省,大統領はすべて知っていた.翻って,日本の外務省と若泉は没交渉であった.さらに,核のかーどを,アメリカはかなり早い段階で譲るつもりでいた.それを当時は見抜くことができなかった.本当は,もっと日本に有利な着地点を見いだせるはずであった.明らかに,結果として外交戦は,アメリカに有利な形で決着したのである.若泉は,「結果責任」という言葉をよく使った.国家のために使えたつもりの自分の使命とはなんであったのか.バブルに浮かれる日本の行く末を案じて,渾身の書「他策ナカリシヲ信ゼムト欲す』を著す.国会に呼ばれれば,証言をしようと覚悟していたのだが,外務省からも,国会からも,声のかかることはなかった.この無力感.
 P.180

 沖縄返還にあたっては、以前から沖縄を本土並みにするという意味で「沖縄の本土化」というスローガンが叫ばれた。しかし、蓋を開けてみれば、返還に伴って、沖縄が「本土化」するどころか、本土の基地の方も「沖縄化」してしまったのである。「沖縄の本土化」ではなく、「本土の沖縄化」だったと指摘する研究者もいる。沖縄返還によって、日本全体の基地が、東アジアにおける安全保障上のおおきな役割を、アメリカから担わされたのである。

【関連読書日誌】

  • (URL)“その時、若泉の耳朶にふれたのは、かつて激戦が展開された摩文仁(まぶに)の丘の戦跡を初めて訪ねた際、見知らぬ地元の男性から教えられた「むせびなく霊の声がこの丘にかすかにひゞく遠き海鳴り」という一首であった” 『「沖縄核密約」を背負って:若泉敬の生涯』 後藤乾一 岩波書店
  • (URL)グ口ーバリズムとナショナリズムに基づく主権国家間の権力政治の間の矛盾が、破局的な事態をもたらす危険性を超克するための「新しい世界秩序の創造」こそが、現代の「苦悩にみちた喫緊の人類史命題」である、と若泉は強調する”  『「沖縄核密約」を背負って:若泉敬の生涯』 後藤乾一 岩波書店

【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】

”核”を求めた日本 被爆国の知られざる真実

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