“一見して不屈だと思われるこの人も、われわれと同じ不安にさいなまれることを知って、われわれの尊敬の念は薄れるどころか、いっそう強まった” 『 マイ・アメリカン・ジャーニー“コリン・パウエル自伝”―ワシントン時代編 (角川文庫)』 コリン・L.パウエル, ジョゼフ・E.パーシコ, , 鈴木主税訳 角川書店

マイ・アメリカン・ジャーニー“コリン・パウエル自伝”―ワシントン時代編 (角川文庫)

マイ・アメリカン・ジャーニー“コリン・パウエル自伝”―ワシントン時代編 (角川文庫)

My American Journey

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Colin L. Powell, Joseph E. Persico 共著によるパウエル自伝.レーガン政権では国家安全保障担当大統領補佐官(1987年 - 1989年)を、ジョージ・H・W・ブッシュ政権では、アメリカ軍の統合参謀本部議長(1989年 - 1993年)を務め,アメリカ大統領候補にもと言われたコリンパウエルによる自伝である.ジョージ・ウォーカー・ブッシュ大統領下では国務長官を務めた.本当は民主党政権下で政権入りをしたほうが相応しかったのでないかという気がする.
 黒人でありながら陸軍のトップに立った人物で,本書を読むと,人物,知力,体力のすべてに秀でた文字どおり「人間」としての能力に優れ人物だけが,軍隊で人の上につけることよくわかる.人の命を預かる職務であるから当然と言えば当然.「実力主義」というのはその組織に対する信頼を厚くする.
 文庫本で三巻もののこの自伝は,成功譚としておもしろく読めるだけでなく.そこを駆け上ったパウエルの人生観を知る上でも興味深い.引用に値する箇所はたくさんあるのだが,どうしても忘れられない一節が,この第二巻にある.レーガン政権の補佐官としてワシントンで職務についていたころのエピソード.当時の国防長官,キャスパー・ウィラード・ワインバーガー(Caspar "Cap" Willard Weinberger)に関するものだ.ワインバーガー(1917 - 2006)は,ハーバード出のエリート.日本の政治家の自伝などを読むたびに,このワインバーガーのエピソードを思い出すのである.国のために働くのか,大統領のために働くのか.昨日,安倍元首相が自由民主党総裁に就任.彼は,何のために,どんな理想のために,働くのか.

二年と10カ月−−一つの経歴が終わった。私は、自分が仕えた人にこのうえなく暖かい感情を抱いてベンタゴンを去った。キャップ・ワインバーガーは少し変わったところがあったが、その心は偉大な闘士のものであり、頭脳明断な先導者であり、彼が心酔する大統領のように、二、三の単純な目標をたて、そこから外れない人物だった。彼は力と、ものに動じない冷静さと、最高の自信のほどをはっきりと見せつけた。しかし、私はほとんど無人707機に乗って夜の闇のなか、地中海の上空を飛んでいたときの、ある意味深い瞬間を決して忘れることができない。それは一九八四年十月、あの首都から首都への、精力を消耗させるマラソン旅行の最後の行程での出来事だった。われわれはイタリア、チュニジアイスラエルおよびヨルダンで仕事をすませていた。シナイ半島ではしばしばこの地域を包みこんで、肺に悪い影響をおよぼすと言われる霧に閉じ込められた。同行していた全員の気分がすぐれなかった。とくにワインバーガーはひどかった。キャビンの前部にリッチ・アーミテージが座り、一方の側に私、他方にワインバーガーが座っていた。暗闇のなかでほとんど姿が見えなかった。われわれは彼が眠っていると思った。だが、そのとき、あの重々しい声が静寂を破った。かねがね、長官はものに動じない人物だと思っていた。ところが、彼はひとりごとを言っていたのである。「寂しい人生だ。本当の敵はつくるが本当の友人はあまりできない、心身ともにくたびれることだ。私は力のおよぶかぎり忠実に大統領に仕えようと努める。しかし、かならずしも彼とその妻にたいして感謝の念、がわくわけではない」。われわれにたいして自分の心の内をあらわにしたことにふと気づいたかのように、彼はしばらく口をつぐんだ。「きみたち二人になら、話せる。私はきみたちを信頼している」と、彼はつづけた。一見して不屈だと思われるこの人も、われわれと同じ不安にさいなまれることを知って、われわれの尊敬の念は薄れるどころか、いっそう強まった。しかし、そういう一面を見るのを許されたのは、あのとき一回だけだった。

一部原文を併載.

Sitting in a cabin up forward were Rich Armitage and I on one side and Weinberger on the other. We could barely see in the dark. We thought he was asleep. But then that deep voice broke the silence. We always looked on the Secretary as unshakable. Yet, he was saying, to himself, it seemed, "This is a lonely life. You make real enemies but few real friends. It exhausts a man in body and spirit. I try to serve the President as faithfully as my strength permit. But gratitude does not come easily to him or his wife." He posed for a moment as though he suddenly rea1ized how nakedly he had revealed himself to us. He went on, "I can speak to you two. I trust you." Finding that this seemingly indomitable man shared the same anxieties as the rest of us made him more, not less, admirable in my eyes. But this was a face we were permitted to see only on that occasion

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【読んだきっかけ】
手元にある文庫本はH13年刊だから,読んだのは10年前か.
【一緒に手に取る本】

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