“単純ではない平易な文章が望まれるとすれば、その平易は、自分に即して生まれた必然性のある平易に限り有効である” 『「やさしい古典案内」のこと』 耳目抄310 竹西寛子 ユリイカ 2013年6月

ユリイカ 2013年6月号 特集=山口昌男 道化・王権・敗者
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良書を得た。
日本の古典文学について。
佐々木和歌子著「やさしい古典案内」(角川選書)
読み易い。自由にのびのびと書かれている。二八〇頁程度の分量であるが、その内容の重みは世に少なくない類書と一線を画している。文学の通史や古典案内の多くが、とかく知識の提供にとどまりがちなのに対して、本書では、著者の作品の読みのほどが文章の息遣いで伝わってくる。稀な経験をした。
今更のように入門や案内の良書を得る難しさを知らされた。昨日まで別の方向に顔を向けて暮らしていた者に、今日突然向きを変えて聴き入ってもらえるようなものを選ばなければならない。知識の提供だけなら年表風の羅列ですむかもしれないが、内容に関わって簡単でも説明をとなると、容易ではない。
個々の作品の読みに責任をとろうともせず、他人事のように時代を区切り作品を羅列している文章で、多くの読者への訴えかけを望むのは無理であろう。勢い読者は置き去りにされてしまう。
遅ればせながら気がついたのは、他人のために何かを易しく書けると思うのは思い上がりもいいところだということである。単純ではない平易な文章が望まれるとすれば、その平易は、自分に即して生まれた必然性のある平易に限り有効である。つまり自分の内奥で、対象との関係をいい加減にではなく絞り上げ、更に他との関係の中に見定めて選ばれるのは、抽象的でも観念的でもない具体的で平易な言葉のはずで、そこから出発している文章なら説得力も期待できるだろうと思った。
さし当っての都合や目先の_ではなく、一国の文化の源としての国語の重みを重みとする人に、そして「百年の計」をもつほどの人にこそ、教育制度の改革はふさわしい。日本語はすべて美しいのではない。気楽に「美しい日本語」という人もいるけれど、ある人がある時ある場所で示した日本語の運用の仕方がよければ「美しい日本語」になり、運用が悪ければそうはなあない。抽象的な日本語は、ない。急に思い立ってその気になれば、すぐにいい運用ができるというわけにはいかないのが言葉遣いの厄介さである。
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【読んだきっかけ】「特集=山口昌男 道化・王権・敗者」に惹かれて
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