“古典文学の歴史をたたどることは、言葉と文字を連ねてきた日本人たちの物語。研究者ではない私は古典の腑分けはできないけれど、そっと横に添い寝して、古典の思いに耳を傾けることはできるかもしれない” 『 やさしい古典案内 (角川選書) 』 佐々木和歌子 角川学芸出版 (1)

- 作者: 佐々木和歌子
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川学芸出版
- 発売日: 2012/10/24
- メディア: 単行本
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これは名著.こういうものを書ける人がいたのですね.
これがいかに魅力的な本であるかは,目次をみればわかる.あたかも芸術作品のよう.
はじめに
文字を手に入れて、すべては始まった − 歌を詠む日本人
異国の文字で書かれた母国の歌 − 『万葉集』
やっぱり和歌がお好きでしょう − 六歌仙と『伊勢物語』
この思いは三十一文字じゃ収まらない − 散文への目覚め
どうしても「かな」で書きたかった船旅の記 − 『土佐日記』
女性が日記を書くということ − 『蜻蛉日記』
これが私たちの言葉、私たちの情熱 − 花開く女たちの文学
「物語」のはるか先へ − 『源氏物語』
清少納言、宮廷の語り部 − 『枕草子』
「物語」のように生きたい − 『更級日記』
市井の人々の声が聞こえる − 王朝時代と武者の世のはざまから
「説話」が生まれるとき − 『今昔物語』
歌う女、歌う王 − 『梁塵秘抄』
この気持ちを名づけるなら、無常 − 時代の転換期がもたらした心地よい絶望
「この世は無常」だってわかっているけれど − 『方丈記』
魂鎮めの声が聞こえる − 『平家物語』
貴族たちに残されたもの − 生き残る手段としての文芸
「聖代」への憧れ − 『新古今和歌集』
描かれた中世の宮廷の秘めごと − 『とはずがたり』
動乱期が心を揺さぶる − 中世的ものの見方、感じ方
太平ならざる物語 − 『太平記』
人間力を鍛えましょう − 『徒然草』
句のものとに集う人々 − みんなで楽しく「座」の文芸
中世の異空間から − 連歌
詩の磁場をさがし − 松尾芭蕉
平和の時代の贈りもの − ―「古典」から旅立つ江戸の文芸たち
元禄の世に言葉が賑わう − 井原西鶴、近松門左衛門
近代の足音が聞こえる − ―読本、滑稽本、そして勝夢酔
主要参考文献一覧
あとがき
はじめに
P.11
古典文学の歴史をたたどることは、言葉と文字を連ねてきた日本人たちの物語。研究者ではない私は古典の腑分けはできないけれど、そっと横に添い寝して、古典の思いに耳を傾けることはできるかもしれない。なぜなら私はどうしようもなく知りたいのだ。私たちのご先祖さまたちは、どんなときに、どんなものを書きたい、と思ってきたのかを。
文字を手に入れて、すべては始まった − 歌を詠む日本人
P.17
ナショナリズムが強く意識されるなかで、文化的な施策として必要とされたのが、漢詩に匹敵するよぅな「日本独自の文学」だった。それまでロからロへと伝えられた歌が、文字によって書き記される機会が訪れたのである。持統天皇の意向によって原『万葉集』が生まれ、さらに元明天皇の命で補われ、最後に元正天皇の意を受けた橘諸兄(たちばなのもろえ)の命によって、越中守(えっちゅうのかみ)だった大伴家持が編み直して二十巻の集が成立したと考えられている。
ひらがなもカタカナもない時代、その記述は漢字に頼る以外なかつた。
P.24
心魂を注いで成立させたニ〇巻本『万葉集』は、家持が長岡京遷都を主導した藤原種継(たねつぐ)の暗殺事件に連座したという理由で朝廷によって没収されて長く秘された。私たちが今見る『万葉集』は、平安初期の平城天皇の時代になってようやく日の目を見たものである。しかし平安中期にはすでに「読めない」歌集になっていた。村上天皇は「梨壺の五人」と呼ばれた歌人たちに解読を命じたが、それはうんざりするような謎解きの連続だったにちがいない。しかし彼らが私信や和歌に使っているかな文字が、『万葉集』が「書かれた」ことによるところが大きいことをよく思い知らされたことだろう。
上記のような事実は知らなかった.驚き.村上天皇は(延長4年6月2日(926年7月14日) - 康保4年5月25日(967年7月5日))なので,なんと200年後のことである.
P.34
『伊勢物語』の魅力は、多くを語りすぎないところだと思う。たとえば一一六段「はまびさし」では、在原業平と目される男が東国をさまよい歩き、京にいる愛人に、
浪間より見ゆる小島のはまびさし久しくなりぬ君にあひ見で
という歌を送る。そして男は「何ごとも、みなよくなりにけり」と言ってやった、という。「なにごともうまくいったよ」――なにがどうよくなったのか、さっぱりわからない。そめ答えは歌のなかにある。あなたとも久しく逢っていません……男はひよっとすると、旅の空の下、孤独を味わいながら、大事にするべきものが見えてきたのかもしれない。
【関連読書日誌】
- (URL)“単純ではない平易な文章が望まれるとすれば、その平易は、自分に即して生まれた必然性のある平易に限り有効である” 『「やさしい古典案内」のこと』 耳目抄310 竹西寛子 ユリイカ 2013年6月
【読んだきっかけ】ユリイカ 2013年6月号
【一緒に手に取る本】

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