“歴史的資料の役割から少し離れて、現実の私と共有している空間の中に在るものを集中的にみつめる。すると...何10万人という単位ではない、たった1人の姿がみえてくる” 『ひろしま 石内都・遺されたものたち Things Left Behind』 リンダ・ホーグランド監督
- 作者: 石内都
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/04
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「ひろしま」と「ながさき」は日本人にとって忘れてはならな出来事ではあるけれど,現代の我々にとってその距離は遠い.時間的にも,地理的にも遠い.広島,長崎に住まぬ人にとって,直接の被害に遭遇しなかった人にとって.“ひとごと”とまでは言わないものの,遠い距離にあるものである.それは,「ふくしま」も同じだろう.どんな悲惨な体験も,当事者になりかわることは決してできない. その距離感を縮め,人間の宿命として捉え直すための手段はいろいろあるだろう.
映画監督阪本順治氏の言葉
私たちが居住まいを正して寄り添わなければ行けない物語が、ここにある。
戦争の悲劇を美しさの中から問う。これは奇跡の映画だ。
映画監督砂田麻美氏の言葉
本来芸術が持つのだろう最も気高い姿を、わたしは石内さんの写真の中に、この映画の中に見たのだと思う。
パンフレットのイントロダクシヨンより
広島の被爆をテーマに撮影した写真展が、
2011年10月14日から2012年2月12日まで
カナダ・バンクーバーのブリティッシユ・コロンビア大学(UBC)
人類学博物館で開催された。
撮影したのは日本を代表する写真家の石内都。
2007年に初めて広島を訪れて以来毎年撮影している写真の中から、
東日本大震災直後に撮影された作品7点を含む48点が展示された。
被写体は被爆し亡くなつた人々の遺品たち――花柄のワンピース、
水玉のブラウス、テーラーメイドの背広、壊れたメガネ…。
本作はその模様を、日本映画の字幕翻訳家でもある
アメリカ人のリンダ・ホーグランド監督か
1年以上にわたつて密着したドキユメンタリーである。
リンダ・ホーグランド監督へのインタビューより
アメリカとカナダの違いについて
根本的なアメリカ人のアイデンティティって、どんなリベラルな人でも、他の国民より偉いと思っているんです。英語でエンタイトルメント(entitlement)という言葉があるけれど、アメリカ人はなにをやってもいい。だからオパマも、平気でドローン(無人の偵察•攻撃機)で3千人の人間を殺している。でも『ひろしま』を観るとそれが問題になるんです。やっぱり偉くなかったんだ、悪いことをしたんだ、と。ゆらぐんです。でもゆらぎたくない。
―
カナダはアメリカじやないですから。根本的に違いますよ。映画に登場するジョン•オブラィアン教授も、アメリカにはああいう冷静に、カナダも原爆に加担していた、といぅことを知的に話してくれる先生はなかなかいないんです。もちろんリベラルな先生はいるけれど、啓蒙的になつてしまう。
― 啓蒙というのはアメリカのリベラリスムを啓蒙するということですか?
いえ、アメリカが悪かったとは言うんですけれど、その主張があんなに静かではないんです。ガンガンお説教するみたいな感じ。アメリカのなかでそういう人々は居場所がないんです。
上の最後のところは重要な指摘.
新しい経験としての“ひろしま” 石内都(写真家)より
広島へ通いはじめて6年、少なくとも年に一度は広島をたずねる。毎年新しく遺品が平和記念資料館に届けられるからだ。半世紀以上たつた今でも細々広島の人達の特別な営みがくり返されている。大切に個人がしまっておいた品物が歴史の証拠品として公共のものとなる。平和記念資料館には人が生活する為のあらゆるものが収蔵されていて約19000点にもおよぶ。その中からほんの一部である衣服を中心に選びだす。
ワンピース、スカート、ブラウス、学生服、手袋、靴…人が身につけていたもの達と私との距離を計りながらその間にある空気と時間を写しとるような撮影だ。歴史的資料の役割から少し離れて、現実の私と共有している空間の中に在るものを集中的にみつめる。すると広島の人々の日常がうかびあがり、何10万人という単位ではない、たった1人の姿がみえてくる。
時間を紡ぎ、時代をまとつたジョーゼットのワンピース、透ける光にピントを合わせ、水玉模様を数え、深く刻まれたおり皺を伸ばす。彼女の背高を感じながらス力ートの中に風を送る。フワッとふくらんだギャザーを通して彼女の透明に透けた容姿が見えたような気がする。「こんにちは」と声をかけてからシャッターを切る。
こんな風にして撮影した「ひろしま」は新鮮な出会だった。いわゆる原爆資料というイメージとは異なる高度な質感、豊かな色彩とデザインセンス、そして手仕事の美しさ、その総てをじかに触れた驚きは、皮肉にも原爆によって遺されたものだからこその感覚なのだ。遺品というよりは形見として写真に写しとつた「ひろしま」は、新しい経験として多くの人達に見てほしいと考えている。
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【読んだきっかけ】都内出張の合間に岩波ホールで鑑賞
【一緒に手に取る本】
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