“被爆者の話は日本のメディアによって単純化され,感傷的な体験にされてきたように私は思うのです” 『ヒロシマナガサキ』 スティーヴン・オカザキ監督作品 2007年アメリカ のパンフレット

ヒロシマナガサキ [DVD]

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現代人の多くにとって,ヒロシマナガサキとの距離は驚くほど遠い.知ったつもりでいるけれど,その内実を正しく知る機会は,減ってきているだろう.2007年にアメリカで,スティーヴン・オカザキ監督により制作,監督された映画 『ヒロシマナガサキ』は,今年の夏,岩波ホールで,『ひろしま 石内都・遺されたものたち Things Left Behind』(リンダ・ホーグランド監督作品)とともに再上映された.
 被爆者へのインタビューを中心に構成されているこの映画は,ともすれば悲惨な体験告白であったり,政治的なメッセージであったり,あるいは,感傷的であったりあうることの多い,重たいテーマに対し,絶妙なバランスと距離感で描いている.被爆者に対する差別の歴史,そして,被災直後の貧困・飢餓との闘いがあった.確かに,国民の多くが貧しかった終戦直後,肉親を失って被爆地に放り出された子供たちの労苦は想像を絶するものであったに違いない.

日本人の多くは,この物語をすでに知っていると感じているかも知れません.しかし一般的には,被爆者の話は日本のメディアによって単純化され,感傷的な体験にされてきたように私は思うのです.被爆者はたいてい奇異な人々,もしくは特別な人々として映し出されています.しかしそれは事実でありません.だからこそ,彼らの体験した出来事こは重要な意味があるのです.被爆者は私たちそのものなのです.私たちの母や父であり,姉妹や兄弟であり,友人や隣人なのです.彼らに起きたことは誰にでも起こりうることなのです.
 私たちは現在,不確実な時代に生きています.核兵器の脅威は現実のものであり,恐怖に満ちています.今ほど被爆者の体験が重要な意味を持つ時代はないのです.

【関連読書日誌】

  • (URL)“第二次世界大戦世代の人聞は自分たちのことを自慢して歩かない” “第二次世界大戦の帰還兵は、スポーツの試合で起きていることと戦場での出来事を、決して混同 しない” 『DUTY(デューティ)―わが父、そして原爆を落とした男の物語』 ボブグリーン, Bob Greene, 山本光伸訳 光文社 (その1)
  • (URL)仮説がいったん定説となって権威を持つと,ときに新事実を切り捨てる道具に使われる.”『マイネカルテ―原田正純聞書』 石黒雅史 西日本新聞社
  • (URL)歴史的資料の役割から少し離れて、現実の私と共有している空間の中に在るものを集中的にみつめる。すると...何10万人という単位ではない、たった1人の姿がみえてくる” 『ひろしま 石内都・遺されたものたち Things Left Behind』  リンダ・ホーグランド監督

【読んだきっかけ】都内出張の合間に岩波ホールで鑑賞
【一緒に手に取る本】

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