“ある一線を越えると事態が一変 するという、その見えない臨界を視る中井の「臨床眼」は、精神医療の現場だけでなく、それを潜り抜けて時代精神にまで向かう” 『精神への「圧力」、減圧の工夫』 (中井久夫著『「昭和」を送る』の書評) 鷲田清一 2013/08/04 朝日新聞
片付けものをしていて,鷲田清一氏が書いた書評が目に付いた.中井久夫著『「昭和」を送る』に対する書評である.中井久夫のエッセーの数々は,私にとっても大切な文章の一つ一つである.その書を鷲田清一氏が書評するのである.短い文章であるが,読みごたえのある評である.
鷲田氏にとって,中井久夫は
時代の流れにふと、えもいわれぬ違和を感じるとき、あの人ならどう受けとめるだろうかとその発言にふれたくなる、そんな書き手がだれにも数人はあるのではないか。わたしにとってはずっと、中井久夫がその一人であった。
という人であるという.
人に自然治癒力があるように「事態」にも自然治癒力があると言い切る中井にとって、さまざまな出来事の重なりのなかから予兆や徴候を読む視力が、問題の解決策以上に大きな意味をもつ。ある一線を越えると事態が一変するという、その見えない臨界を視る中井の「臨床眼」は、精神医療の現場だけでなく、それを潜り抜けて時代精神にまで向かう。
【関連読書日誌】
- (URL)“日本の精神医学を代表する功績を残したのは、精神分析学の土居健郎(たけお)さんと、個人と個人の「あいだ」の概念で日本人を分析した精神病理学の木村さんだと思います” 『(人生の贈りもの)精神科医・中井久夫』 朝日新聞 2013.9.10-10.4
- (URL)“やはり人間は燃え尽きないために、どこかで正当に認知acknowledgeされ評価されappreciateされる必要があるのだ” 『災害がほんとうに襲った時――阪神淡路大震災50日間の記録』 中井久夫 みすず書房
- (URL)“情報はイマジネーションがなければ意味をなさない。時には情報がないということが逃げ口上に使われる” 『復興の道なかばで――阪神淡路大震災一年の記録』 中井久夫 みすず書房
【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】
世に棲む患者 中井久夫コレクション 1巻 (全4巻) (ちくま学芸文庫)
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