“ある一線を越えると事態が一変 するという、その見えない臨界を視る中井の「臨床眼」は、精神医療の現場だけでなく、それを潜り抜けて時代精神にまで向かう” 『精神への「圧力」、減圧の工夫』 (中井久夫著『「昭和」を送る』の書評) 鷲田清一 2013/08/04 朝日新聞

片付けものをしていて,鷲田清一氏が書いた書評が目に付いた.中井久夫著『「昭和」を送る』に対する書評である.中井久夫のエッセーの数々は,私にとっても大切な文章の一つ一つである.その書を鷲田清一氏が書評するのである.短い文章であるが,読みごたえのある評である.
 鷲田氏にとって,中井久夫

 時代の流れにふと、えもいわれぬ違和を感じるとき、あの人ならどう受けとめるだろうかとその発言にふれたくなる、そんな書き手がだれにも数人はあるのではないか。わたしにとってはずっと、中井久夫がその一人であった。

という人であるという.

人に自然治癒力があるように「事態」にも自然治癒力があると言い切る中井にとって、さまざまな出来事の重なりのなかから予兆や徴候を読む視力が、問題の解決策以上に大きな意味をもつ。ある一線を越えると事態が一変するという、その見えない臨界を視る中井の「臨床眼」は、精神医療の現場だけでなく、それを潜り抜けて時代精神にまで向かう。

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【読んだきっかけ】
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世に棲む患者 中井久夫コレクション 1巻 (全4巻) (ちくま学芸文庫)

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「昭和」を送る

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